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ロクサーヌ (その16)

 バーチャルヴィジョンの映像が終わって、私は動揺していた。丁仙芝は、バーチャルヴィジョンの危険性について話してくれた。「この仮想現実は脳内に直接作用するため、視覚、聴覚、触角などの感覚が制御されてしまい、それらの感覚器官から得られるはずだった実際の刺激が脳に達する前に、仮想現実からの信号が脳の中で現実だと認識されてしまう。仮想現実を体験している間は、夢を見ているような状態となり、リアルに起きていることを認識できないのだ。また仮想現実内で更に仮想現実を体験してしまうと、夢の中で夢を見ている状態になり、それを繰り返すとやがては現実と仮想現実の区別がつかなくなる。現実感がなくなってしまい、自分から遠く離れた状態で自分自身を見てしまうこともある。何重にも重なった仮想現実内の記憶を前世の自分の記憶と、思い込む者も出てきた。そのような事態を防ぐためにも、娯楽センターで管理されるようになったのだ。」
 しかし、ロクサーヌが体験したことは、ここにあるバーチャルヴィジョンのゲームと全く同じだった。丁仙芝は「はるか古代にアーリアと名乗る種族がいた。彼らの信じた宗教ではハオマと呼ばれる幻覚剤を水に溶かし、それを聖水として祭壇に供えていた。祭日には彼らはその聖水を口に含み恍惚状態の中で神に祈ったという。私は、あの団体が用いている聖水はそのハオマではないかと疑っている。」丁仙芝の説明を、私は否定することができなかった。確かに毎回、同じなのだ。そして同じ映像を見ているうちに、実際にそのような地球の歴史を自分が体験してきたように感じているのだ。自分の記憶の一部になってきている。団体の受付で口に含む聖水が、ハオマだとすれば私はいつも幻覚を見ていることになる。私の中にも彼らに対する疑問が浮かび、心が揺らいできていた。
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