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ロクサーヌ (その28)

 私kは、その日答えを見た、と思った。だが、答えを見ることを予感し期待してワクワクしている自分に気づき、すぐにそれが誤りだと思い直した。なぜなら、本当に答えが分かった時にはもう既にその答えへの興味は失われ、次の問題へと思考は移っているからだ。答えが分かると期待している時には答えは分かっていないということだ。だが、答えに出会える予感はあった。その日は朝から病院へ行く予定だった。途中、駅の踏切を渡るとき反対側を渡ってくる老婆を見た。「この人だ」と分かった。私は踏切の手前で道路を横切り老婆に声をかけた。「あなたですね。」その人は「はい。」と頷いた。道路の左手にある地下の喫茶店に入った。"貿易風"という看板が目に入った。どこかで聞いたような気がした。中に入ると、テーブルを挟んで向かいに座り、店の様子を見た。帆船の写真が飾ってあった。その帆船を見て、思い出した。そうだ、学生の頃通っていた喫茶店に似ている。あれは、飯田橋から目白通りを北に歩いた路の左手にあった喫茶店だ。アルバイトの帰りによく行ったことがある。そうしてみると、カウンターも、棚に置かれたコーヒーカップもよく似ている、いや全く同じに見える。「ここは、どこなのですか?私は、ここに来るのは初めてなのに、まるで以前ここに来たことがあるような気がします。」「あなたに見えているのは、あなたの記憶が作り出したものです。あなたのイメージが作り出したものが見えているのです。」そう言われると、店の風景が揺らぎだした。すべての形が変わってゆく。向かいにいたはずの老婆の姿も揺らいでいる。「あなたは誰なんですか?」「私は、意識の流れです。あなたは、今この店が揺らいで見えていると思った。それは、あなたの意識が揺らいだのです。」老婆の顔が少し若くなった。「私は、答えを知りたいと思いあなたに出会いました。」「これが、答えなのです。あなたは、今まで『見られるもの』でした。あなたの思考は、他の誰かの言葉で一杯になり、あなたに見えているものは、他の誰かが見たものを映しているだけだったのです。でも、それは終わりました。あなたは、『見るもの』になったのです。自分の意思で思考し、自分の思考したものを見るのです、他の誰かではなく。」「どうして、私が『見るもの』になったと言えるのでしょうか?あなたは、いったい誰なのですか?」「大きな意識の流れがあり、それはたとえて言えば川の流れ。多くの人は川を流れる水のように、誰もが溶け合い形を持たずただ流れ去るのみなのです。けれど、あなたはほかの人と別れ、泡になった。形を持ったのです。私は、その泡の傍らを流れる小さな意識の流れ。あなたが泡になったから、私も生まれたのです。」「私は、自分の意思を持ったということなのですね。」「そう。今まであなたは、他の人を恐れ、他の人に見られる事を恐れていました。けれど、これからはあなた自身の思考を宣言するのです。」「あなたの名前は何ですか?」「私に名前はありません。大きな意識の一部にすぎないのです。」「私は、その全体を理解することができません。あなたを他と区別するために名前が必要なのです。私が、あなたの名前を付けても構いませんか?」「はい、私はあなたの傍らに生まれたものです。だから、あなたが名前を付けてください。」「それでは、あなたのことをフロストと呼びます。」「ありがとう、私はあなたが泡でいる間、あなたの傍らにいます。」
フロストと別れた後、私は予約してある病院へ向かったのだった。

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