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ロクサーヌ (その40)

 野辺地のフェリー埠頭を目指して海岸沿いの国道を走る。しかし、フェリーの姿はどこにもなかった。漁港の老人に尋ねると、随分前に廃止され定期航路の船はないという。私は諦めきれずに、下北半島の大間を目指してまた車を走らせた。海岸を北上すると、突き当りに恐山がある。少し寄り道をしてみようと思った。恐山は、唐末に日本から長安へ留学した円仁が開いたと言われている。円仁は、長安で唐末の騒乱を目撃し苦労をして日本に帰ったという。伝承によると、長安にいたときに見た夢のお告げで、東方の霊場を探したどり着いたのがこの恐山だったと云う。恐山は硫黄のにおいが立ち込める火山であるが、一方でそこにある湖は静かで大変美しい。
 恐山から降りて、私は大間に向かった。海岸を右手に見てひたすら走る、すれ違う車も人の姿もなくただ一人だった。しばらくすると、フェリーの泊っている姿が見えた。乗船するが、乗客は他にはいなかった。動き出したフェリーから埠頭を振り返ると、野辺地と書いてあるのが見えた。何かの間違いかと思い乗車券を確認すると、野辺地➡函館となっている。やがて海上は、深い霧が立ち込め何も見えなくなり、私の意識もぼんやりと霧の中に彷徨う感じがした。そして、激しい雨が降り出してきて、私は下を見おろした。私にそっくりな顔をした、首だけの男がこちらを見ていた。たたきつける雨が、大きく見開いた男の目から、小さな滝のように流れ落ちていた。その男と目があった瞬間に、私の精神とその男の記憶が重なり、私はここで起きたことの全てを了解したと思った。私は、今は死んでしまったこの男だったのだ。かつて、どこかの世界で私は、雨の中で人を殺してしまったのだろう。そしてこの男は、かつて犯した私の罪のためここで死んだのかもしれない。あるいは、明日どこかの世界で私がこの男の罪のために死ぬのかもしれない。
  私は、再び野辺地の埠頭にいた。みると1隻の木造の帆船から5人の男たちが下りてくる。 お坊さんと、ペルシャの神官2人と、犯罪人の仲間2人である。唐からこの帆船で日本へ向かったのだが、途中嵐に会い、この港に流れ着いたのだという。他の者たちはおらず、たどり着いたのは5人だけだった。
 犯罪人たちは私を見ると駆け寄ってきて「お前、生きていたんだな」という。私を死んだ仲間と思っているようである。お坊さんに恐山の霊場があることを話すと、お坊さんとペルシャの神官の3人はそこへ行きたいという。3人を恐山へ送り、行く当てのない犯罪人2人は私の車に残った。
 私は2人を連れて東京へ向かった。この者たちと、私にどんな繋がりがあるのかはわからない。しかし、別の世界では兄弟だったのかも知れないし、友人だったのかも知れない。今は、それもどうでもよいと思える。遥かな未来で、遠い惑星で、かつてすれ違っただけかもしれないが、今ここでこの世界で出会ったということは、この者たちと私の精神が触れ合い共鳴しあう何かがあったのだろう。そうでなければ100億の人間の中でどうして出会うことができるだろう。そう思って、お互い見知らぬ国から来た私たちは同じ車で帰ることにした。
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