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ロクサーヌ (その41)

 私ロクサーヌは、鐘崎をあとにして大阪へ向かった。私たちは新しくできた鉄道で行くことにした。日本の鉄道は大陸とは違って、狭い山あいや私たちの目には峡谷のように見える隙間を縫ってゆく。時折民家のすぐ近くも通り、また右手には瀬戸内の海に島々が浮かぶ様子も見え、絵葉書のようにも思えた。一方で大陸の風景になれた目からは、目まぐるしく変化するその様子は早回しの映画を見ているようでもある。
 そうして広島の街を過ぎたときに、後方に空一杯に広がる大きな光が走った。そのあとすぐに雲が湧きたち、火山の噴火のように思えた。やがて、空は黒い雲に覆われ雨が降り出した。私たちは、そこから遠ざかってゆくのだが、人々の顔には驚きと悲しみと恐れが見て取れた。何が起こったのかは、まだわからなかった。しかし、岡山を過ぎたころにはそれが大きな爆弾だったと、人々が話していた。
 悲劇はまだ続いていた。神戸につくと一面の焼け野原であった。列車は停止したまま動かなくなった。私たちは、街に出て焼け出された人々の間を歩いて、北野の山へと昇った。少し平らになった山道で休むと、下に神戸の街が広がって見えた。真っ黒に焼け焦げた家並みの内側に赤く燃える火が炭の熾火のように見えた。そして、地獄とはこのようなものかとも思える街並みの、その向こうに広がる港の海の青と、空の青と雲の白が、なぜか悲しいことに美しいのだ。
 翌日、私たちは神戸から歩いて大阪に入った。若者が夢を語っていた、明治の日本はあっけなく滅んでいた。勿論、初めから攘夷を目的として維新を起こし、新しい国づくりをしたのだからいつかは負け戦で滅んでも仕方のないことではあるが。あまりに悲惨に思えた。
しかし、大阪で人々は既に新しい希望を語り始めていた。今度は、アメリカと民主主義と自由である。騒々しく、新しい音楽が鳴り響き、初めはガムとチョコレートを、次にはクリスマスとリンゴとケーキを欲しがる人々でにぎわっていた。
焼け跡から芽吹く新芽のように、人々は夢を語り、絶望から希望、悲しみから喜び、死から誕生へと永劫回帰を繰り返す。それは、素晴らしいことではあるのだが、私は少し疲れてしまった。今では、敦煌の静けさが懐かしかった。
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