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ロクサーヌ (その54)

1990年9月9日(日)錦糸町
 私たちは、それぞれ働き始めて1か月が経とうとしている。
 今では私の仕事は、受付や貸付ではなく、督促が主体になっている。
朝出社すると、延滞客のリストを確認し、電話をかける。1時間に100から200件である。殆どのお客は、電話に出ることはない。約束の取れるお客と、取れなかったお客に分けて、これを1日に3回繰り返す。延滞客はさらに、当日発生と1週間ごとの延滞日数によって分類される。こうして段々に初期の延滞客と長期の延滞客とに分類され、システムによって管理される。
 会話は極力短く、要点のみに絞られる。何月何日、何時にどこからどのような手段でいくら入金するのか。それをコンピューターに記録していく。肝心なのは、感情を持たずに機械的に行うことである。約束は、破られて当然なのである。むしろ破られる為にあるようなものである。そのように思わないと、感情的になりトラブルになってしまう。
 顧客は、その場しのぎのためか、様々な事情を説明しようとするが、それを聞いているのは時間の無駄になり非効率的なのである。それでも、私は、ついつい顧客の話を聞いてしまう。つい同情してしまうのである。そしてたいていの場合その説明は事実とは異なっている。
 一定時間が過ぎても通話中だと、アラートが鳴る。それを過ぎると自動的に切断されてしまう。というのも、長時間にわたる交渉は過剰な督促とみなされる恐れがあるからだ。
 このようにして、一日が終わる。督促可能な時間も法律で定められているため、督促のための残業は殆どない。
自分の感情さえ制御できれば問題のない仕事である。
 一方、ヒョンニの方は困ったことになっていた。
新人のホステスを成田まで迎えに行ったり、またプロダクションに行って誰を採用するか決めたりするのだ。迎えに行くこと自体はよいのだがその後にその中から、誰かを採用し、誰かを断らなければならない。ホステス志願の子も、わざわざ遠い外国からきているので必死である。国に帰れば、家族に期待されているからである。恐らく日本に来るために借金を背負っているのかもしれない。前払いで、家族が受け取っているのかもしれない。
 断ったがために、大声で喚かれたりもする。そのような経験はないので、慣れないとできないのである。しかし、そのような同情心などをコントロール出来れば特にむつかしい仕事でもない。人を感情のない品物のように扱いさえすればよいのである。
 このように、私たちは、全く違う職種なのであるが、必要とされるのは同じ心の能力である。つまり感情のコントロールである。しかし、それは簡単にはできない。自分自身をシステムの一部にしていくというのは難しいのである。

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