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ロクサーヌ (その68)

カミラは今も、夜になると苦しくなるという。

『カミラ、壁は超えられるよ。一緒に飛ぼう。』3年前に、ジョセフはそう言って、
メキシコ国境の壁に向かって飛び込んだ。
私は『待ってよ、ジョセフ。まだ行かないでよ!』と叫んだ、が間に合わなかった。
 ジョセフが壁に飛び込むとすぐに、大きな花火が光った。青く、黄色く、赤く、白く虹色の花火が大輪のバラのように咲いて、すぐに消えた。ジョセフの姿はなかった。
 ジョセフは死んだのか?それとも壁の向こうに行ってしまったのか。
私には分からなかった。ただ、ジョセフが消えた瞬間に、とてつもない悲しみと、怒りを覚えた。ジョセフを失った悲しみと、なぜもっと強くジョセフを引き留めなかったのか?という後悔と自責と、私からジョセフを奪った壁に対する怒りと、私を置いて一人で行ってしまったジョセフに対する怒りと。激しい悲しみとショックで、夜になると、胸が痛み、呼吸ができなくなり、苦しくて死にそうなのに、死ぬこともできず、とめどなく涙がこぼれ続けた。
 ジョセフは私の知った唯一人の男だった。ジョセフ以外の男は、親しくなっても私の足の6本の指をみると皆ギョッとして去っていった。私はそのたびに、『このインポ野郎、オカマ野郎』などと、心の中で叫んでいた。
 ジョセフは完璧なビジョニスタだった。
4つの目と、4つの耳を持っていて、その為、いつもターバンを頭にかぶり2つの目と耳を隠していた。ジョセフはいつも人々と違うものを見て、違う声を聴いていた。
なぜ、ジョセフが壁を超えようとしていたのか、私には分からない。
 だけど、私はジョセフを追って壁を超えてみようと思っている。ジョセフと一緒にいつまでも楽しく暮らしたい、私の望みは唯それだけだ。他には何もいらない。
 メキシコ国境の壁は私には遠すぎる。日本の壁はもっと優しいと聞いた。
それで、私は日本に来ることを選んだ。壁を超える能力を身に着けるためだ。
 ビジョニスタの間でリーダーと呼ばれている男がいる。彼は、ビジョニスタになる手順を示してくれる。子供たちの間では、ヒーローだ。私も彼から、学んでいる。
 ビジョニスタになって、壁を超えたり、違うものを見たりできるようになったからと言って、それが日常生活には全く役に立たないと思っている。
普通の人にとっては、むしろ邪魔な能力だと思う。
でもきっと、普通の生活が苦しい人には、希望なのかもしれない。
 私は、ただジョセフが好きなだけだ。今でもジョセフだけを愛しているのだ。
なぜって、私を愛してくれたのは、ジョセフだけだからだ。
私にとっては、ジョセフがヒーローであり、神様なのだと思っている。

以上が、カミラがビジョニスタを目指した理由だった。
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