fc2ブログ

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 41)

ジームラ・ウントで。
「総理、メサスの神官セルナ・ラガシュという者が来て面会を希望しております。ルーム人の伝説に関して話したいことがあるといっておりますが。」

「それは、どのような事ですか?」

「ペーシュウォーダの『創世記』という書物を持っていて、その中にルーム人の滅亡に関する記録があるということです。」

「ルーム人の伝説については、はるか昔にヨルダネスという者が持ち帰って調べたはずですが。」

「はい、ですがそのヨルダネスは、残りの記録について調べるといってアシナ島へ行き、そのまま消息不明となっているのです。」

「それでは、私達の知らない記録がまだあるのですか?」

「恐らく、その事についての話だと思われます。如何いたしましょうか?」

「分かりました。官房長官はその事について、検討してください。もしその記録が重要なものであるのならば、話してみましょう。官房長官にそのように指示してください。」

数日後、官房長官からセルナ・ラガシュに連絡があり、総理との面会の許可がおりた。

「総理、私はメサスの神官をしております、ラガシュ家のセルナと申します。面会をお許し下さり感謝いたします。」

「ルーム人の伝説について私たちの知らない記録があると聞きましたが、どの様なことですか?」

「はい、最初に申し上げておきますが、これは予言などではなく、事実の記録なのです。ですからそのおつもりでお聞きいただきたいのです。そして、これは私たちの未来に関わる重要なことなのです。」

セルナは、ルーム人がかつて、彗星に攻撃されこの惑星を捨てて、宇宙に逃れそのうちの一部は地球という惑星に行ったいきさつを話した。

「このように、記録では彗星が現れたと述べています。私たちもまた、この彗星に攻撃される恐れがあります。その為に、私たちは、彗星に対する備えを急ぐ必要があるのです。」

「あなたは、どのようにすればよいと考えているのですか?」

「私は、彗星が攻撃する前に破壊する必要があるのだと思います。この彗星は、初めは小さくそのうちに巨大化して近づいてくるのです。ですから、それが十分に小さく遠いうちに攻撃して破壊すれば良いのではと思います。」

「しかし、私たちの技術では攻撃する手段がありません。何か良い対策があるのですか?」

「はい、ルーム人の残した文明を利用して、核融合プラズマ砲を開発するのです。そうすれば、彗星を破壊できるはずです。」

「核融合プラズマ砲ですか、それはまだ実用化できていません。またその予定もないのです。あまりに危険な兵器ですから。」

「ルーム人の残した設計図があるはずです。それを基に作れるはずだと思います。」

「あなたのお話は分かりました。一度、政府内で検討してみます。」

 セルナは、真剣に話しているのだが、総理の返事はつれないものだった。
同時に、セルナは何故自分が攻撃を急いでいるのか、自分でも何を焦っているのか、自分自身に苛立ちを覚えていた。

『滅亡が迫っていることを、どの様に伝えればよいのか?
本当に、攻撃する以外に方法はないのだろうか?
自分は自由と平和を願っているはずだが、実際には攻撃するように勧めている、どうしてなのか?』

『私は、滅亡した未来を見ている。また、滅亡した過去も見ている。
同じことを繰り返したくないのだが、何故かまた滅亡の道を歩んでいるのではないか?』

自問自答するのだが、自分の中で矛盾が起きていた。それが苛立ちを招いていた。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 42)

セルナ君からの連絡はまだない。

 私は、セルナ君とアラン教授の行動に不安を感じている。
2人は、何故か核融合プラズマ砲で彗星を攻撃するという考えに取りつかれているようだ。
それが地球を彗星の爆発から救う方法だと思っているようだ。

 だが、目の前で起きたことは、その結果惑星ルーム・ノヴァスが滅亡したことだ。
勿論、彗星が遠くにいるうちに攻撃すれば助かる可能性もあるのかも知れない。

 しかし、私にはなんだか腑に落ちないのだ。
彗星の攻撃を防ぐために先に攻撃する、というのだが、それは本当なのだろうか?

 というよりも、このタブレットを読み解いていくうちに、何故か戦争へと向かっているような気がする。あの彗星も、タブレットの中で出てきたものだ。それが、現実に現れたというのだろうか?
今CTUが調査しているという彗星は、タブレットの中の彗星と同じなのだろうか?

 仮にそうだったとしても、なぜ今現れたのだろうか?
私のデータもタブレットに取り込まれている。
私たち3人がこのタブレットの世界に巻き込まれている。

 このタブレットが彗星を呼び寄せているのではないか?
それが戦争に向かわせているのではないか?

 私は、何をすべきだろうか?
あの2人を戦争から引き戻すためには、どうしたらよいのだろう?

 カーチャがいる。カーチャはヨルダネスと共に、隠されたルーム・ノヴァスにいる。
あそこは、平和な世界だという。求めるべきは平和。
しかし、あの世界は彗星の攻撃から逃れるために作られたという。

 知るべきは、何故彗星が現れるのか、彗星の目的は何か、やはりそこなのだろうか?
いずれにせよ、カーチャと話ができればよいのだが。その方法はないものだろうか?

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 43)

 セルナ君からの信号があった。
「教授、セルナ君がストップの信号を送ってきました。一旦こちらへ戻しますが宜しいですか?」

「うむ、そうしてくれ。データを手に入れたのかも知れない。」

 セルナ君の意識が戻った。

「教授、戻りました。」

「セルナ君ご苦労だった。どうだ、データは手に入ったのかね?」

「いいえ、それがジームラ・ウントの警戒心が強く駄目でした。」

「そうか、出来なかったのか・・・。何か方策はないのかね?」

「それで、考えたのですが。彼らが、ルーム人の残した文明の記録を手に入れたのはアシナ島でした。なので、そのアシナ島へ行ってみようと思うのですが。」

「アシナ島へ?しかし、そこの記録は全部持ち帰ったのだろう?」

「はい、ですから彼らが、持ち帰る前にそこへ行ってみようと思うのです。」

「それは、可能なのか?その時代は遊牧民が支配していて危険なのではないか?」

「ええ。彼らのうち、ティム・テギュンという助手がヨルダネスと共に、アシナ島で記録を発見したのですが、そのティム・テギュンに成りすますというのはどうでしょうか?」

「どうやって、それが出来るというのかね?」

「はい、新しい量子コンピューターでティム・テギュンの意識に僕の意識を同調させるというのはどうでしょうか?」

「それは、つまりティム・テギュンの意識を乗っ取るということか?」

「はい、そうです。日本チームの経験では、kの意識をロクサーヌに同調させていたと思うのです。あの時は、完全に同調させることはできませんでしたが、新しいタイプの量子コンピューターであれば可能かと思います。」

 私は、なんだか恐ろしくなった。
「待ってください、教授。」

「何だねオリガ君?」

「それは、危険です。こちらの意識が逆に乗っ取られることも考えられます。相手に乗っ取るつもりはなくとも、こちらに呼び込んでしまう、ということもあるのではないでしょうか?」

「うむ、確かにまだ成功したわけではないので、その危険もある。」

 しかし、セルナ君は自信ありげに言った。
「万一に備えて、僕の意識の接続コネクターを2つ用意してください。1つはこちらといつもつないでおけるようにすれば、大丈夫だと思います。」

 セルナはこころの中で思っていた。
『僕の意識のメモリーは元々2つ用意されている。1つは、惑星ルーム・ノヴァス人としての意識。もう1つは地球人としての意識。

 これは1万年前に地球に来た時から、地球人として生きるために用意されていたものだ。
失敗すれば、僕が惑星ルーム・ノヴァス人だということが分かってしまう危険もあるが、それでもやり抜いて見せる。』

「セルナ君、どうして君はそんな危険を冒そうとするの?私には危険すぎてとてもできない。」

「彗星から地球を守りたいのです。」

「そんな・・・」

「まあ、オリガ君、セルナ君がそこまで言うからには自信があるのだろう。実際セルナ君は、既にシミュレータの世界に行っているのだから。ここはセルナ君に任せよう。」

 どうして教授も簡単に許可するのか?そうまでして核融合プラズマ砲のデータが欲しいのは何故なんだろう。私には、この2人の危険な思考が理解できない。

 それにしても、とうとうアシナ島へ行くことになった。私も何か対策を考えなければ、隠されたルーム・ノヴァスの秘密がわかってしまう。そうすれば、私はどうなってしまうのか?

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 44)

ジームラ・ウント - 1万年前

 私ティム・テギュンは、遊牧民の出身である。と言っても、武人の家系ではない。
私の家系は他の人とは違い、遠くの声を聴くことができる。その為、古くより遠くの宇宙の声や死んだ人の声、また未来や過去など時空を隔てた声を聴き、それを人々に伝えてきた。

言寄せの家系であり、シャーマンの家系である。

 ある時、ジームラウントの博物館で学芸員をしていたのだが、突然目の前に不思議な光景が浮かび、私の中で声がした。

 『特別な力を持った武将が大きな川の激流の中で敵と戦っている。しかし、不死身の体に異変が起き倒れてしまう。味方である弟が必死で助けようとするが、皆激流に流されてしまう。

 夜になり、学校のような建物の前で授業を受けるため、学生が並んでいる。しかし、明かりは見えず。まるで人気もない。並んでいる人に話しかける。「これでは授業をやっているのか全く分かりませんね。」「本当にそうだね。」

 何階か上に行った部屋の入り口に、姿も見えないまま、言葉だけが響く。あの傷ついた武将がまた来て、開けてくれという。引き戸の入り口が開き中から人が出て来るが、初めは武将に気が付かない。誰も居ないのかと訝しがるが、やがて武将に気が付く。

 武将が中に入るが、これが幽霊なのか、生きた人なのか誰も分らない。当の武将にもわからない。しかし、ここには武将の仕える貴人たちがいる様である。

 横たわった年の頃60位の男性が、武将の顔を見て何かを言うが、声は聞こえない。武将の手を取っても温かみがまるでない。死んだような手である。』

 私にはよく意味が分からなかったのであるが、何かの戦いで、死んだ人の思いが伝わってきた。その人たちは、本当は学問をしたかったようである。
そして、戦いに敗れた後、死んだ人たちの世界に行ったようである。そこは、学問の世界だった。

そして、私はその翌日、アシナ島に行く調査団に選ばれた。
ヨルダネスと共に滅亡したルーム人の文明を調べるためである。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 45)

 セルナ君は、再びシミュレータの世界に行く。

「ティム・テギュンの時空位置情報を特定しました。このホテルの地下のカフェに居ます。そう、その右奥の角の席にいるのが彼です。1時間後には調査団が出発します。セルナ君、準備はできている?」

「大丈夫です。では、これからティム・テギュンの意識に侵入します。」

『これがティム・テギュンの意識か。何も見えない。空っぽだ。何を考えているのか?まずは体を操作できるか、試してみる。ゆっくりと手を動かす。カップを口に運ぶ。コーヒーを飲む。問題はない。』

「オリガさん、ティム・テギュンの意識への侵入は成功しました。体を操作しましたが、問題なく動きます。」

「了解しました。くれぐれも気を付けて、慎重にね。何かあれば、すぐ信号を送って。」

 セルナ君は、行ってしまった。無事であって欲しいと思うが、でも一方では何も得られずに終わればいいとも思ってしまう。

 私は、どうしても核融合プラズマ砲については危険な気がして仕様がないのだ。何か違う方法がないものかと思ってしまう。

ティム・テギュンの意識の中で。

「私の中に、入ってきた君は誰だ?」突然、セルナに話しかける声が聞こえた。

「そういう君は、ティム・テギュンか?」驚いて、セルナは聞き返した。

「そうだ。私はティム・テギュンだ。断りもなく侵入してきた君は誰だ?」

セルナは、侵入が失敗したのかと思い、焦りを感じた。
「どうして、僕がいることが分かったのだ?」

ティム・テギュンが言った。
「君が答えないのなら、私が調べるよ。ここは、私の世界だからね。・・・君はセルナだね。」

「どうして、僕のことがわかるんだ?この意識は、僕が支配しているはずだ。」

「セルナ・ラガシュ、メサスの神官の家系だね?何のためにここに来たのか、理由を話してくれるかな?それとも、それも私に言わせるつもりかい?」

セルナは動揺した。
『まずい、このティム・テギュンの意識は、全く支配できていない。むしろ、僕の意識が読まれている。』
「君は、僕の意識を調べられのか?どうして、それができるんだ?」

「言ったはずだよ、ここは私の世界だってね。私は遠くの声を聴くことができるんだよ。

 この世界には、普通の人には聞こえない遠くの声も、時空を隔てた声も聞こえてくる。
私はただそれを受け入れ、それを求める人に伝えるだけだ。

 だけど、君は少し違っているね。君は、この世界に侵入した。つまり私を、攻撃したということだ。だから、尋ねているのだよ、その理由を。」

「いや、それは誤解だ。僕は、君を攻撃するつもりはない。本当だ信じて欲しい。」

「では、もう一度だけ聞くよ。何故、この世界に来たのだ?」

 セルナは、どう答えるべきか、迷った。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 46)

セルナ君の意識レヴェルを伝えるモニター画面が激しく点滅し動いている。
「教授、セルナ君の意識がかなり激しく活動しているようです。何かあったのでしょうか?」

「信号はどうなっている?」

「ストップの信号はありません。何もこちらに入ってきませんが。」

「うむ・・・。セルナ君が何も言ってこないのだから、今は見守るしかないだろう。」

私は、教授に核融合プラズマ砲がどうしても必要なのか聞いてみた。
「教授、私は核融合プラズマ砲が不安なのです。もし失敗したら、とても危険なことが起こるのではないかと。」

「オリガ君、君の心配は分かるよ。君の先祖が、かつてベラルーシで起きた悲劇の犠牲になったことは僕も承知しているからね。
だけどね、僕が思っていることは、単に核融合プラズマ砲が欲しいということではないんだ。

僕たちの研究はそもそも、量子変換によって、別の世界に人間を転送できるかということだ。
その為には人間のプラズマ化現象をコントロールする必要がある。その為に、ルーム人の文明を役立てられると思っているんだ。

量子とプラズマの研究に、今回の調査が画期的な進展をもたらす可能性があると思っているのだよ。」

ティム・テギュンの意識の中で。

セルナは、ティム・テギュンの問いにどう答えてよいのか迷っていた。

「僕がここへ来たのは、惑星ルーム・ノヴァスの滅亡を防ぐためだ。僕は、やがてこの惑星に彗星が現れ、攻撃される未来を見た。その攻撃によって、惑星は滅亡したのだ。それを防ぐために、ルーム人の文明の力を借りようと思っているのだ。」

ティム・テギュンは、暫く黙っていたのだが、やがてこう言った。
「君の意識は、変わっているね。2つあるのだね。それは何のためだい?」

「それは、僕が、地球という惑星で生まれたからだ。その為、地球と惑星ルーム・ノヴァスの両方の意識を持っているのだ。でも、それも全ては惑星ルーム・ノヴァスの存続のためなんだよ。」

「そうだね、君がそう思っているのは分かったよ。君が、彗星を攻撃するために、ここに来たのも分っているよ。私は、君の敵ではないから邪魔はしないよ。でもね、君の味方でもないんだよ。

一応警告しておくけど、ここに来て、ここを出てゆくのは構わない。けれど、長く居るのは、君にとって良くないことかも知れないよ。

前に言った通り、ここでは色々な声が聞こえてくるからね。その声に、君が捕まってしまうこともある。気を付けることだね。」

そう言い終えると、ティム・テギュンの声は聞こえなくなった。
後には、ただ静寂だけが残された。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 47)

 研究室で。
「教授、シミュレーターの進行速度をこちらの世界の1日当たり、向こうの世界の1ヶ月で設定しました。」

「ありがとう。セルナ君の方は大丈夫かな。もう意識レヴェルの乱れは収束したのかな?」

「はい、今は落ち着いています。」

「そうか、では3日後には良い知らせが得られそうだね。後は頼んだよ、オリガ君。」
 教授は帰っていった。

 私は、隠されたルーム・ノヴァスの時空間位置情報を調べた。私自信が行ってみようと思ったのだ。そして直接ヨルダネスと話してみようと考えた。だが、時空間位置情報は特定できなかった。やはりあれは”虚数=i”の世界なのだろう。

 でもそれでは何故、私は入ることができたのだろう。恐らくヨルダネスが道を開いたのだろう。そしてその後、再び閉じた。ヨルダネスが道に入れたのは、私ではなくカーチャだった。

 ティム・テギュンも、あの中には入れていない。だとすれば、セルナ君も入ることはできないだろう。このタブレットが、ある種の物語であり、ゲームだとすればヨルダネスや、ティム・テギュンにはその特定の役割があるはずだ。

 恐らくティム・テギュンは、入り口まで読者を連れてくる役割。そして、その先へ進むかどうかを選別するのがヨルダネスの役割だろう。そう考えると少しわかってきた。

 セルナ君がティム・テギュンを選んだのは偶然ではない。このタブレットがそう仕向けているのだろう。だが、この先へ進むにはどうするのだろう?まだヨルダネスの選別の基準が分からない。

 今言えるのは、隠されたルーム・ノヴァスは、自由と平和を望む人の世界であり、そして、ルーム人が再び帰ってくるときのための世界だということだ。
だから、破壊を考える人には道は開かれないはずだ。そして、ルーム人は平和をまだあきらめていないということだ。

 だとすると、破壊ではない方法で彗星の攻撃を防ぐことができるのかも知れない。
少なくとも、ルーム人はそれを探しているのだろう。
逆に言えば、彗星を攻撃しても結果は破壊と滅亡なのかもしれない。


ルーム・ノヴァスの伝説 (その 48)

ティム・テギュンの意識の中で。

セルナは、静寂の中で思いを巡らしていた。

『こうして静寂の中にいると、1万年前の地球と、この惑星ルーム・ノヴァスを何度も行き来したその光景が思い出される。

 僕の体は今では表面をたんぱく質の皮膚で覆われている。もうメタルの自動人形ではない。半分は地球人なのだ。今も、僕が救おうとしているのは、地球だ。その為にアシナ島へ向かおうとしている。

 だが、半分は惑星ルーム・ノヴァスとメサスのためだ。その気持ちを消すこともできない。
ところが僕は、その真実を誰にも明かすことができないのだ。

 故郷とは何だろう。地球にいれば、自分は本当は惑星ルーム・ノヴァス人で地球人などよりも高度な文明の子孫だ、などと思い。また惑星ルーム・ノヴァスに来れば、地球が懐かしく思える。地球人の方が優しいのだ、などと思うのだ。

 だが、結局誰にも心から打ち解けることはない、そう思うと自分のしていることが虚しく思えて仕様がない。そのせいだろうか、時々無性に何かを破壊したくなる、攻撃したくなるのだ。
今も、闘いのためにこうしているのではないかと、自分自身に疑いを持ってしまうのだ。』

 そんなことをぼんやり思っていると、誰かの呼ぶ声が聞こえてきた。

『セルナ・・・セルナ・・・もう出発の時間だ。起きろ。』

 ハッとして気が付くと、もう船の出る時間だった。慌てて、タラップに駆け寄り船に乗り込む。
そして、不意に疑問が浮かんだ。『今、セルナと呼ばれた。何故、誰が呼んだのだろう。』
周りを見回すが、誰も呼ぶ人はいない。ティム・テギュンの声かとも思うが、意識の中にはその声はない。

少し不思議な気がしたが、船は既に港を離れて出発した。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 49)

アシナ島で。

 島に上陸した後、タブレットで見た通り、密林の中を、島の老人に案内されて進んだ。

だが、途中でまた声が聞こえてきた。
『セルナ、よく聞くがよい。これからジームラ・ウントの子ヨルダネスが秘密を持つ。
お前は裏切られるのだ。よく見るがよい。』

僕は、その声に思わず問い返した。
『お前は誰だ。何故、僕の名を知っているのだ?』

すると、声が答えた。
『私は、真実のお前なのだ。お前の心の奥の声だ。私の言うことをよく聞くがよい。
ラガシュ家のセルナ、ヨルダネスを信用してはならない。

 これからお前たちはルーム人の塔の前に行く、するとヨルダネスはお前を残して、中に入るだろう。お前が中に入ることはできない。』

それだけ言うと、また声は消えた。もう呼び掛けても返事はなかった。

 暫く歩くと、ルーム人の塔の前に出た。入口の門をくぐって中へ進む。ENTRANCEと書かれたドアの前に出るのだが、突然ヨルダネスの姿が消えた。

 僕も、続いて入ろうとするのだが、ドアは開かなかった。
ドアの前で案内の老人と共に待ってみるが、ヨルダネスは戻ってこなかった。

 仕方なく、老人を残して、僕は塔の周りを歩いてみた。どこにもヨルダネスの姿はない。そして、またドアの前に戻ろうとしたとき、老人と共にヨルダネスが歩いてきた。

どこへ行っていたのか尋ねるのだが、ヨルダネスの顔は蒼白く、険しい表情で何も言わないのだ。

『やはり、あの声の通り、ヨルダネスは何か隠しているのか?』
僕の心に疑念が浮かんだ。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 50)

 アシナ島で。

 島へ来てから、3週間ほど経つが、新しい発見はない。ルーム人の文明の跡は、あの古びた塔だけだ。タブレットでは、科学調査団が必要なほどの発見があったはずなのだが。

 ヨルダネスは、あの日のことは何も話そうとしない。ただ徒に、この密林の中を回っているだけのようにも思える。

 ひょっとすると、あの日ルーム人の文明につながる何かを既に発見していて、それを僕に知らせないようにしているのか?

 だが、助手であるティム・テギュンに隠すというのもおかしな話だ。
ティム・テギュンを疑っているのか?ティム・テギュンは遊牧民の出身だから、それもありうることだ。

それでも、隠さなければならないほどの秘密があるのか?

 考えれば考える程、ヨルダネスが疑わしく思えてくる。
疑心暗鬼が心に渦巻いてくる。

このままでは埒が明かない。
もう一度、塔の入り口に行ってみて、確かめる必要がある。

 そう決心すると、僕はヨルダネスとは別行動をとった。独りで、塔の入り口に行ってみたのだ。

 だが、結果は同じだった。ドアは開かない。後は、このドアを壊してでも無理やり
入るしかないのだが、それはさすがにヨルダネスが許さないだろう。

 疑心暗鬼は既に、苛立ちに変わっていた。
ヨルダネスは、そもそもジームラ・ウントのことしか考えていないのだろう。
きっと、誰にも本当のことは話さないのだろうし、あのタブレットでもこのことは秘密にされていた。

 ジームラ・ウントが世界を征服するために、ここへ来たのが始まりなのだから。
そうであれば、ヨルダネスが遊牧民のティム・テギュンには本当のことを話さないのも当然かもしれない。

 だとすると、ここでは今回は何も発見できないままなのか?
いや、3か月もいたからには、何か見つけているはずだ。
だからこそ、もう一度調査団を派遣したのだから。

 ということは、僕には内緒で何か調査をしているのか?
例えば、夜のうちに行動しているのか?

 まずい、心が乱れてきた。冷静な判断が出来ない。このままでは、ヨルダネスと衝突するかもしれない。それではダメだ、せっかくここに来ているのだから。
どうにかして、秘密を探りださなければ。

プロフィール

gasset

Author:gasset
FC2ブログへようこそ!
歴史的事実に改編を加えた妄想小説です。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
09 | 2019/10 | 11
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR