fc2ブログ

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 31)

 アラン教授が再び研究室にやってきたのは、セルナ君がとんでもないアイデアを持ち出してから2日後だった。

「オリガ君、この前のセルナ君のアイデアなんだが、君はどう思う?」

 アラン教授が私に意見を求めることは殆どなかった。
よほど悩んでいるのか?
それとも私の同意を求めるためか?

「正直に申し上げて、私は難しいのではないかと思います。
と言いますのは、今回のケースはデータが不足しすぎていると思うからです。

 日本チームでの実験は、この地球の歴史の再現と予測でした。

 地球に関しては、何と言っても私たちのホームグラウンドですから地質学、気候学、海洋学、天文学そして歴史学、地理学とあらゆる分野の研究の積み重ねがあり、その膨大なデータが取り込まれていました。

 ですが惑星ルーム・ノヴァスの場合は、殆どあのタブレットと無人探査機のデータだけです。

 たったそれだけでは、何が起こるのかそれこそ予測不能なのではないでしょうか?」

「しかし、セルナ君は自信ありげだったね。それに日本チームのことまで調べていたんだ。

 とても前向きではないかと思う。僕は、セルナ君のその努力を評価したいと思っているんだ。」

「はい、その点については私も素晴らしいと思いました。」

「僕はね、オリガ君。君にも、もっと積極的に関わってもらえないかと思っているんだ。
 
 タブレットの解読も、君だけでは予定通りに終わらせるのは厳しかったのではないのかね?

セルナ君は随分頑張ったように思うけどね。」

 アラン教授は、私の意見ではなく、やはり同意だけが欲しいのだ。
そうすれば、下からの希望を取り入れた、という形にできるからだ。

「はい、仰る意味はわかりました。一つお伺いしたいのですが、セルナ君はどういうわけでこの研究室に来たのですか?

 以前はバックエンドのプログラマーだったようなことを聞きましたけど。」

「彼は、モスクワからの推薦があったんだよ。出身がコーカサスのアララト山の近くだったらしく、モスクワとしてはロシア連邦出身者をこの研究に参加させたかったようだ。

 ただ聞いた話では、コーカサスの地元の少数派の宗教の神官の家系でクリスチャンではないらしい。でもトルキスタンとの国境近くだから、宗教の問題はとりわけ敏感な地域だ。

 モスクワにとって、イスラム教徒でもクリスチャンでもないというのは、ある意味宗教的に開かれた国だとアピールできる要素でもあるわけだ。つまり、研究者としての能力よりも、政治的な力が働いた人事のようだということだよ。」

 ということは、セルナ君の仕事ぶりをアピールすることは、アラン教授にとっても政治的に有利だということか。モスクワからの援助が期待できる、ということなのか?

 これ以上考えても、政治のことは分からないし、分かりたくもない。
もうこの話は終わりにしたいと思った。

「分かりました、私もセルナ君のアイデアを成功させるよう努力します。」
 本当は、教授の指示に従います、と言ってやりたいところだが、そうするとまた話が蒸し返しになると困るのでやめた。

 それよりも、セルナ・ラガシュとは一体何者なのだろう?
唯のバックエンドのプログラマーが、モスクワの目に留まる?
そんなことがあるのだろうか?

 あるとすれば、その神官としての家系に何か秘密があるということか?
そんな力のある一族ということか?

 やめよう、こんなことを考えても無駄だ。
とにかく今は、仕事に集中するしかない。精神を保つために。


スポンサーサイト



ルーム・ノヴァスの伝説 (その 32)

 次の日、アラン教授はセルナ君のアイデアを実行することに決めた。

 セルナ君は、また新たな提案をした。
「教授、提案なのですが、僕はジームラ・ウントではなく、メサスに行こうと思います。」

「それは、どうしてなのかね?あのタブレットはジームラ・ウントが作ったものだろう。」

「ええ、そうです。惑星ルーム・ノヴァスの歴史はジームラ・ウントによって記録されたものです。
ですが、その記録によるとメサスとジームラ・ウントとの戦いが基調にあると思えるのです。

 最初にジームラ・ウントとメサス帝国の闘いがあり、また最後まで抵抗したのもメサスでした。
そして勝利者であるジームラ・ウントによって統一されたとなっています。
しかし、その後に彼らはいなくなってしまう。

 その統一後に、あるいは統一の過程で実際に何が起きていたのか、これを知るには勝利者の記録だけではなく、敗れたメサスの記録を調べる必要があると思うのです。」

「しかし、タブレットの記録ではメサスの状態がどうだったのかはあまり詳しくわからないだろう。」

「はい、なので直接メサスへ行くことで、そこのところを調べたいと思うのです。」

「うむ・・・。オリガ君はどう考えるかね?」

私には、またも突飛すぎるアイデアに思えた。

「書かれた記録だけではなく敗者の側から見直す、というのは意義のあることだと思います。
ただ、そのことが時空の乱れを呼ぶ可能性があるとも思えますが。」

「そうか。セルナ君、危険なのは承知の上でそれでもメサスへ行きたいのかね?」

「はい、真実を探る為には危険は覚悟の上です。このプロジェクトを成功させるために必要なことだと思っています。」

「よし、そこまで覚悟があるのなら、君に任せよう。他に必要なことがあれば何でも言ってくれたまえ。」

 最後は上機嫌になってアラン教授はセルナ君と一緒に帰っていった。

 日本チームの経験では、歴史はそれを観測する者の意識によって変化する。
時空間の乱れが、新たな別の歴史を生みだす可能性があることが分かっている。

 セルナ君はそれを敢えて引き起こそうとしているのだろうか?
 だがそうだとしても、それは何のためだろうか?
 その危険を冒すメリットは何なのだろう?

 別の歴史がありうることは、このタブレット自体が示している。
タブレットの質問に対する私の答えによって、結果が変わってしまうからだ。

その事も私には疑問だが、セルナ君はその事に気付いていたのかも知れない。

 それでもなぜメサスなのか?
 それに気付いていたのなら、隠されたルーム・ノヴァスの存在にも気付いているはずだ。
 なのに彼はそこではなく、反対の方向を目指している。

 それは何故だろう?
彼には、この研究に対して別の目的があるのだろうか?

 単にアラン教授の歓心を買うため、とは思えない。
つまり、彼はアラン教授のこの研究を何らかの目的のために利用しようとしているのだろうか?

 それでも、私にとっては、彼が本当のルーム・ノヴァスから離れていくのは幸いというべきだ。
何故なら、彼がそこに行けば、私と出会ってしまう可能性があるからだ。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 33)

メサス ー 1万年前

私セルナ・ラガシュはメサスの神殿で教主に会っていた。

「教主様、私は神官ラガシュ家のセルナと申します。
教主様にどうしてもお話ししたいことがあってやって参りました。」

「それはどのような事なのですか?」

「我がラガシュ家は、太古の洪水の時代にコーカサスのアララト山に避難しておりました。
その際に、古くから伝わるペーシュウォーダの『創世記』も保管していたのです。古い時代のもの故、殆ど忘れられておりました。

 ですが、今日のジームラ・ウントの攻撃という事態で再び避難するときがくるやもしれぬと思い調べなおしていたのです。」

「ペーシュウォーダと言えば、我々の創造主と言われる方々のことですか?」

「はい、そうです。あのルーム人の伝説もその方々のことだと言われています。」

『創世記』によれば・・・
 太古の時代、我らは暗黒の中で回転するドラゴンの炎から生まれた。銀河の中に12の青い惑星がありそのいくつかに分かれて住んでいた。やがて時がたち我らは故郷を探す旅にでた。

 しかし、あの『暗黒』と出会い、攻撃を受けたのだ。彼らは光のない彗星を操っていた。
それは、すべてを食べつくす巨大な『暗黒』だった。我らは、それを撃ち、確かに爆破したのだが。

 その結果は我々の惑星の破滅をもたらした。幾つもの流星となって降り注いできたのだ。

我らのうち、あるものは光となって宇宙をさまよい、またある者は別の惑星にたどり着いた・・・。

 この書を読み進むうちに、いつの間にか私はこの書の中に入り共に旅をしていたのです。
そして見たのです。地球という惑星にたどりついたペーシュウォーダを。

 これは私には啓示と思えました。

 聞くところによると、ジームラ・ウントは核融合兵器でキッシュの皇帝を脅したそうです。そのような兵器はこの惑星の破滅をもたらすでしょう。

 彼らはルーム人の文明の驚異に目を奪われてしまい、『暗黒』のことを忘れているのです。メサスはこのままでは滅びてしまうでしょう。

 私は、地球を探してきます。ペーシュウォーダを探してきます。そして、また再びここに戻り、メサスの人々を解放します。

 どうかそれまで、耐え忍んで頂きたいのです。たとえ、今はジームラ・ウントの支配を受けたとしても、いずれ再びメサスが輝きを取り戻すことでしょう。」

「分かりました。あなたを信じましょう。今は争いをやめようと思います。
必ず帰ってきてください。」

「はい、必ず戻ってきます。」

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 34)

 セルナ君は、シミュレータに自分自身のデータを統合した。

 アラン教授が最後の確認をした。
「ではセルナ君、君の言う通り、『現在』の惑星ルーム・ノヴァスに行き、そこからジームラ・ウントの統一まで遡る。それで大丈夫だね。」

「はい、このタブレットがいつの時代のものか分かりませんので、遡るのが一難確実だと思います。」

「うむ、それで万一危険な場合には、すぐ止めるように合図できるね。」

「はい、その場合には、ストップと心の中でいいます。僕の意識をシミュレータにつないでいれば、その信号が伝わり、ストップするようにプログラムしましたので。」

「では、オリガ君、セルナ君スタートしよう。くれぐれも安全第一を忘れないように、よろしく頼む。」

「では、オリガさん僕の意識をシミュレータにつないでください。行ってきます。」

そう言って、セルナ君はシミュレータの世界に旅立った。

 初めは、何の変化もない死の世界が続いた。5千年程さかのぼると、変化が現れた。
陸地が見る見るうちに水で覆われた。そして、雨が降り続き大洪水の時代だ。
更に遡ると、流星が降り注ぎ、海が沸騰した。

アラン教授が言った。
「これは、初めの頃の映像と全く同じではないか。データは大丈夫なのか?」

「今のところ異常信号はありませんので、大丈夫だと思います。」

そして、次に現れたのは、巨大な爆発だった。

「今のは、何だ?もう一度戻して。」

私は、もう一度爆発の時点に戻して、ゆっくり再生した。

「これは、この巨大な爆発は一体何なのだろう。」

「とても強いエネルギーです。まるで太陽のような。太陽フレアでしょうか?」

「今までこのような爆発は見たことがない。何が爆発したのか、確かめよう。先へ進めてくれたまえ。」

先へ、つまり過去へ遡ると、巨大な惑星が頭上に、空一杯に広がった。

「教授、これは惑星でしょうか?空が真っ暗になっています。」

「うむ、しかし惑星のはずはない。もしそうなら衝突しているはずだ。
その場合、惑星ルーム・ノヴァスも無傷であるはずがない。」
 
 その惑星は、徐々に収縮して小さくなっていった。つまり、膨張していたということだ。
最後には直径10㎞ほどの小さな彗星になって遠ざかっていき、宇宙の闇の中に消えた。

6千年ほど前のことだった。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 35)

 シミュレータの中で 1

 私セルナ・ラガシュは、ジームラ・ウントの最期を見た。

 彗星は巨大な惑星のようになり、天上を覆いつくした。
ジームラ・ウントの人々は、恐怖にかられ、議会では連日対応についての果てしない議論が続いていた。

 議員A「総理あれは、明らかに我々への攻撃です。直ちに宇宙軍を出撃させるべきではありませんか?」

 議員B「いや、総理あれは、他の文明からのメッセージです。我々もメッセージを送るべきです。」

 議員C「総理そうではありません。あれは単なる物理現象です。むしろその軌道を変更させるために物理的な衝撃を与えるべきです。」

 議員D「いいえ、総理あれは、新たな啓示です。神が新しい惑星を我々にプレゼントしてくれたのです。直ちに訪問してお礼を述べるべきです。」

 国防省の長官が発言した。
「あれが、何者なのかは分かりません。しかし、このままでは衝突の可能性があります。もし議会での決議があれば、攻撃する準備はできています。」

 「攻撃とは具体的にどうするのですか?」

 長官が答えた。
「核融合プラズマ砲を発射します。」

「それは、既に完成しているのですか?」

「核融合プラズマ・リアクターの動作確認はできています。」

「そのリアクターは平和目的だったのではないのですか。究極のエネルギーを平和的に利用することで、エネルギー問題と戦争から解放されるのではなかったのですか?」

「あくまでも平和のためです。我々には市民の安全を守る義務があるのです。」

「総理、市民の意見を問うべきです。国民投票を行うべきです。」

そうして全市民による投票が行われ、圧倒的多数で彗星を破壊することが決まった。

核融合プラズマ砲が発射され、彗星は大爆発を起こした。

長官が総理に説明した。
「総理、破壊には成功しましたが、消滅はしませんでした。予定では、高エネルギープラズマの照射によって彗星自体のプラズマ化を引き起こし、他の宇宙に転送させるはずでしたが。コントロールできなかったようです。」

「避難する準備はできていますか?」

「はい、予定通り10万人分だけですが、宇宙船が用意してあります。」

「そうですか、ではそのように進めてください。」

「残りの市民は、どうしますか?」

「議会と全市民による投票で決めたことです。その決定に従うだけです。市民には順次宇宙船を用意中だと伝えてください。」

そして、流星が降り注いだ。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 36)

 研究室で爆発を見た私たちは、まだそれがジームラ・ウントの攻撃によるものだとは知らなかった。

「教授、今の爆発は彗星によるものでした。」

「うむ、これはもしかすると、今小惑星帯にいる彗星と同じ現象なのかもしれない。あの彗星も大きくなりつつあるとの報告を聞いた。」

「もしそうならば、やがて巨大化して爆発する可能性があるということでしょうか?」

「その可能性はある。問題はそれがいつ起こるかだ。地球との距離によっては、無傷で済む可能性もあるが、場合によっては、地球に甚大な被害がもたらされる可能性もある。」

「どうしましょうか、これは連邦政府に報告すべきでしょうか?」

「うむ、報告はすべきだが、今ではない。まだセルナ君の連絡を待つ必要がある。」

「セルナ君は大丈夫なのでしょうか?」

「彼からの信号はまだないのかね?」

「はい、まだ何も変化はありません。」

「だとすれば、彼は無事なんだね。しかし、あの爆発を見ても何も言ってこないとは・・・。まるで彼は、その事を知っていたかのようだね。」

「ええ、私もなんだか不思議な気がします。普通なら、すぐにもストップの合図を送ってきそうなものですが・・・。」

「それにしても、この彗星にどのような対策が考えられるだろうか。今の我々の科学では解決できそうもない・・・。しかし、一つ方法がある。」

「それはどんな方法でしょうか?」

「ジームラ・ウントの科学技術を利用することだ。」

「えっ、どういうことでしょうか?」

「ジームラ・ウントの技術を利用して、彗星が爆発する前に破壊してしまうということだ。」

 私はアラン教授の思考のスピードについてゆけなかった。
何故なら、この研究は惑星ルーム・ノヴァスの資源を活用するために始めたことだからだ。
しかし、今教授は彗星を破壊する方向に考えが向かっている。

「でも、教授。それは私たちの研究の趣旨からは少し違っているのではないでしょうか?
あの彗星に対する調査はCTUが行っていることではないのでしょうか?」

「オリガ君、状況が変わったのだよ。この彗星がどれだけ危険かわかってしまった以上、その対策を考えるのは、それを知ったものとしては当然の義務だ。つまりこれからは、この彗星に対する調査も我々が行う必要があるということだよ。」

それは確かに正論ではあるが・・・。CTUが納得するのだろうか?

「オリガ君、僕はこれから連邦政府のメルブ課長に会ってくる。彗星の状態を確認してくるつもりだ。」

「あの爆発を報告されるのですか?」

「いや、それはまだだ。まずは状況を確認してくるよ。セルナ君のことは頼んだよ。」

「はい、承知しました。いってらっしゃいませ。」

 アラン教授はもしかすると、この状況すら自身の手柄にしようと考えているのかも知れない。

 だが、私はこの展開の速さについていけていない。
 私は、何の為に、何をしようとしているのか?
 ただ状況に流されているだけではないのか?

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 37)

 アラン教授は連邦政府のメルブ課長に会っていた。

「教授、今日はまた調査団の件ですか?」

「いいえ、今日伺いましたのは、妙な噂を聞いたからです。」

「妙な噂とは、何のことですか?」

「例の彗星のことですが、それが拡大しているという噂です。本当なのでしょうか?」

「そうですか、もうご存知でしたか。ええ、それは噂ではありません、事実なのです。」

「では、それに対する対策は,何か考えられているのですか?」

「CTUでは、対策を検討しているようです。」

「どのような対策なのでしょうか。お伺いできますか?」

「この事は、まだ公にはなっていないので、内密にお願いできますか?」

「ええ、勿論です。私は口外するつもりはありません、お約束します。」

「では、ここだけの話ということでお話しします。これはあくまでも、CTUの対策なので連邦政府としての対策ではありません。なので詳しくは私も承知していないのです。」

「ええ、勿論分かります。どうぞお聞かせください。」

「彗星は、今直径が30kmほどになっていて、拡大を続けている状態なのです。その為、CTUでは拡大阻止を検討しているのですが、名案はないようです。有力な案としては、彗星の破壊が検討されています。」

「それは、どのようにして破壊するというのでしょうか?」

「彼らは核ミサイルの発射を考えているようです。しかし、それには問題がありすぎるのです。今は余りに距離がありすぎる為、命中精度が保証できない事です。だからと言って近づくのを待っていては、ますます巨大になる恐れがあります。」

「では、どうするというのですか?」

「そこで彼らは、月の裏側に発射基地を作り、そこから発射することを考えています。タイミングとしては、彗星が火星の引力圏内に近づくころです。つまり、破壊の影響を火星に吸収させるのが狙いということです。」

「それでも、かなり遠い距離ですね。正確に狙えるものでしょうか?」

「今のところは何とも言えません。しかし、彼らは既に月にある彼らの基地に製造施設を準備するよう動いています。」

「それは、連邦政府が承認したということですか?」

「いいえ、CTUの独断です。ですが、彼らの論理では、地球の安全に責任を持っているのはCTUだということなのです。」

「それは、一体どういうことですか?」

「彼らは、CTUが地球の正当な支配者だと主張しているのだと思います。」

「そんなことが、許されるのでしょうか?」

「今のところ連邦政府は黙認しているようです。何故なら、此の事が公になると困るのは連邦政府だからではないでしょうか。これは私の個人的な推測にすぎませんけど。」

「なるほど、公になってしまうと、今度こそ連邦政府が対策を迫られるからですね。」

 彗星が、その周囲の物体を消滅させていることは、この時点では話題にならなかった。

 アラン教授はCTUの案が失敗するだろうと予想した。たとえ月から破壊用のロケットを発射したとしても、それが命中するとはとても思えなかったからだ。

 問題はむしろ、CTUが自らを支配者であるかのようにふるまっていることだ。
その事こそが、本当の危険だと思っていた。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 38)

 メサス - 7千年前

 メサスの神殿で。
「教主様、ラガシュ家のセルナという者が、来ておりますが。いかがいたしましょうか?」

「セルナですね。通してください。」

「教主様、私は神官ラガシュ家のセルナと申します。かつて、地球に旅立ったものです。」

「知っています。帰ってきたのですね。」

「はい、お約束通り戻ってまいりました。」

「地球の様子はどうでしたか?」

「はい、ルーム人はおりませんでしたが、かつてペーシュウォーダが来たと思われる痕跡はありました。」

「それは、どのようなものですか?」

「はい、地球人は私たちと似た伝説を持っていました。大洪水の伝説と、神による宇宙と人間の創造神話です。それは、善と悪との戦いの神話でした。」

「では、彼らもまたペーシュウォーダに作られた自動人形なのですか?」

「恐らくは、そうだと思います。ただ彼らは、自らが自動人形だとは気づいていないようでした。

 彼らの皮膚は、我々のようなメタルではなく、たんぱく質の化合物によるものでした。
恐らく、水から生まれたためだと思われます。しかし、彼らは既に新しい自動人形を作り出しています。それらの進化を見ることによって、彼ら自身が自動人形をだったことを思い出すことでしょう。」

「そうですか、ところで私は今日不思議な夢を見ました。

 大きな乗り物がゆっくりと周囲を威圧するかのように進んできました。それを見ていた人々はみな、恐れて立ちすくんでいました。

 ところがその乗り物は、突然くるりと振り向いたかと思うと、猛スピードで壁に激突し爆発しました。炎が燃え盛り、金属とガラスの破片とがあたりに飛び散りました。見ていた人々は、何が起こったのかわからずただ茫然としていました。」

「教主様、それは私も見ました。今から千年後に彗星がやってきます。
それを見た人々は恐怖のあまり、その彗星を攻撃し爆破したのです。それから彗星の破片がこの惑星に降り注ぎ火の海となりました。実は、私がお話ししたいのはその事なのです。」

「どのようなことですか?」

「ジームラ・ウントは、その彗星を爆破したのち、一部のものだけを連れて、この惑星を見捨てて飛び去っていくのです。私たちの太初の神話が繰り返されるのです。」

「あなたは、何故それを私に話すのですか?」

「私は、この歴史を変えたいと思っているのです。」

「変えて、どうしたいのですか?」

「ジームラ・ウントの統一は、結局失敗したのです。彼らの言う平和は、偽りでした。」

「どうして、そう思うのですか?」

「彼らは、彗星を破壊するときに、全市民による国民投票と、議会の議決でそれを行いました。しかし、それが失敗した際にどうなるのかは明らかにされていなかったのです。そして、彼らは一部の市民だけを避難させ、残りの市民は破滅するこの惑星に置き去りにしたのです。」

「その事を、あなたは非難しているのですか?」

「そうです。爆破の危険性と、失敗した場合に避難できるのは限定されているということを、初めに明らかにすべきだったのだと思います。」

「そうですか、そのような話をするためにあなたはここへ来たのですか・・・」

教主はセルナの話を聞いて、少しがっかりした様子だった。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 39)

 メサス - 7千年前

 メサスの神殿で。
 教主はセルナに問いかけた。
「あなたは、どのような未来を望んでいるのですか。あなたの描く未来で彗星は現れるのですか?」

「私は、誰もが自分の未来を自由に決定できる、誰かの支配をうけない未来が欲しいのです。」

「それは可能なのですか?あなたには、その未来が見えていますか?」

「まだ分かりません。けれど、ジームラ・ウントの支配した未来は、自由はなかったと思います。情報が明らかにされず、知らないうちに決定されたのだと思います。」

「もし、情報が明らかにされていれば、どうなったのでしょうか?彗星はこないのですか?」

「彗星は来たのかもしれません。しかし、多くの人々が置き去りにされることはなかったと思います。」

「そうですか、ではあなたは、自分でも不確かな未来のために、歴史を変えたいというのですね。その結果はどうなるかもわからずに、ただ自分の想いが満たされないから、ということですね。」

「ですが、取り残された人々は救えるのかも知れません。」

「すでに起きたことですから、その人々を救うことはできないでしょう。また、これから起きる新しい歴史でも救えるのかはわからないでしょう・・・。

 つまり、あなたがやろうとしていることは、あなただけの未来なのです。それはジームラ・ウントの支配と何ら変わることはないでしょう。きっと同じ歴史が繰り返されるのでしょう。」

「では、どうしたらよいとお考えなのですか?」

「あなたは、超越者を見たことはありますか?」

「いいえ、それはペーシュウォーダのことでしょうか?」

「それは、たぶん違うと思います。私は一度だけ見ました。ほんの一瞬ですが。

 その方は、私の背後にいました。というより、その方の手の先、指の先に私がいたのです。まるで大きな木の枝葉の先のように私たちがいました。その方は大きな木だったのです。あるいは、巨大なサンゴのポリープの触手のその先の一つの細胞が私でした。その方はその全体なのです。

 振り向いてその方の顔を見ると、まるで燃え盛る太陽のようでした。
口をあけて笑っていたように思います。そして、その方の足元の指の先で私が前を向いた時に、突然気が付いたのです。

私自身がその方だと、その方は全体です。『大きな私』なのです。そして、この私は『小さな私』、その方の一部なのです。

 周りには私と同じような、枝葉の先の一つ、触手の先の細胞の一つ、指先のその先である私たちが大勢いたのです。みな笑っていました。けれど皆少しずつ違うのです。

 私は、その方を見上げると同時に、私自信を、私たち全体を見下ろしていました。その時に思ったのです。皆それぞれ、一つのものでありながら、それぞれに違う生を生きるのだと。

 ですから、私は歴史を作り直すことはありません。今のこの生が、不運だったとしてもそれでよいのです。私と同時に少しずつ違う私が、少しずつ違う生を生きているのです。

 過去も未来もないのです。今この瞬間に多くの私が、多くの生をいきているのだから。そのうちのどれかの私が、満たされなかったとしても、それでも、私は、その私の、それぞれの私の生を懸命に生きることが大事なのだと思います。

 時間というものが、あると思えば、やり直しもあると思えるかもしれません。しかし、私が見たその世界では時間はないのです。すべてが同時に起きているのです。
私は全体であり、そのうちの一つである。ほんの一瞬でしたが、そのように思いました。

 ですから、セルナさん、あなたはあなたの生を思いのままに生きてください。私は、この世界の私が滅びるとしても構いません。その時まで、『この私』を生きるだけなのです。」


ルーム・ノヴァスの伝説 (その 40)

 私セルナ・ラガシュは、教主の話を聞いた。
しかし、それは私の想いとは違うものだった。
教主は既に、世界を変えることを諦めている様に、私には見えた。

 私は、何故か話を聞いているうちに悔しさを覚えた。私はジームラ・ウントの文明を見た。
彼らが、彗星を攻撃し破壊するのを見た。人々が破滅の淵に立たされ、置き去りにされる様子を見た。

 それらの光景を見ているうちに私の心に忍び寄る影を感じた。
何故か無性に、攻撃し破壊したくなるのだ。
その思いは、教主に拒絶されたことでさらに強くなっていく。

この思いは何だろう?
悔しさと怒りと、孤立感と、絶望感がまじりあった、この黒い感情は何だろう。

「教授、セルナです。ジームラ・ウントは彗星を攻撃し破壊しました。僕は、これからジームラ・ウントの攻撃兵器を調べてきます。」

「教授、セルナ君からの連絡です。ジームラ・ウントが彗星を破壊したと言っています。」

「ジームラ・ウントが彗星を破壊した?ではあの爆発はジームラ・ウントの攻撃だったというのか?」

「はい、そのジームラ・ウントの攻撃兵器を調べてくると言っています。」

「分かった、セルナ君に伝えてくれ。ジームラ・ウントの兵器のデータを残らず調べるようにと。
そして、彼らの宇宙船のデータも調べるように言ってくれ。」

「はい、分かりました。そのように伝えます。」

アラン教授は、これでジームラ・ウントの文明が手に入る、と思った。

『セルナ君が、宇宙船と攻撃兵器のデータを持ち帰ってくれば、それを利用してERUが優位に立てるだろう。地球を支配しているのはCTUではないことを、彼らに想い知らせねばならない。』


プロフィール

gasset

Author:gasset
FC2ブログへようこそ!
歴史的事実に改編を加えた妄想小説です。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
09 | 2019/10 | 11
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR