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ルーム・ノヴァスの伝説 (その 72)

日本チームの研究室で。

その頃kは、自身の記憶を物語にしていた。

私kは、日記などはつけたこともない。また自分自身を含めて、全てにおいて表現するということが苦手である。

そんな私が、それでも、何らかの生きた証を残したいと想ったのは、きっと心の奥では誰かと語りたいと思っているからだろう。

ここに記すのは、私が経験し又は、私の知人が経験した事及び想起したことである。

私がロクサーヌという自動人形を作り自分をそれに託したのは、芦名史人という人物(友人?またはただの通りすがりの人?)との出会いがあったからだ。

その事について思い出す限りのことを記したいと思う。

回想 1 貿易風という名の喫茶店での店主との会話
その頃私は、清原真人と名乗っていた。店主の名前は安倍と言った。

「壁にある写真は、何の写真ですか?」

「ああ、あれは僕の趣味で、帆船とか旅の途中で見た珍しいなと思ったものを記念に写真に撮ったんですよ。左の船は、僕としてはコンティキ号のつもりです。コンティキ号って知ってますか?」

「いいえ、何ですか?」

「ヘイエルダールという冒険家が乗っていた船の名前ですよ。彼はイースター島から南米まで船で昔の人が渡ったという仮説を立て、それを実証する為に、自分で船を作って太平洋を渡ったんです。その船の名前がコンチキ号なんです。」

「へえー、冒険が好きなんですか、マスターは?」

「ええ、まあ憧れてたんですね。
でも、実際は冒険何てできませんでした。旅行は好きでしたけどね。」

「そうですか。そう言えば、この店の名前『貿易風』というのは何か意味があるんですか?」

「貿易風というのは、まあ僕のイメージですけど、アフリカ東岸やアラビアから、インド更には東南アジアへ風が吹いているんですけど、その風を利用して、昔の人は船を繰り出して貿易をしていたんです。

その風を貿易風と言うんですよね。ギリシャやローマではヒッパルコスの風と言っていたそうですけど。まあ何となくロマンを感じて貿易風という名前にしたんですよ。」

「そうですか。じゃあ、あのラクダの写真はシルクロードの写真ですか?」

「そうなんですよ。サマルカンドで撮った写真です。」

「ところで、いつも一緒に来られる方は、今日はご一緒じゃないんですか?」

「ああ、あいつはこの頃、具合が悪い様子で、アパートで休んでいるんです。」

「ご心配ですね。風邪ですか?」

「いえ、それが、おかしな夢を見るらしく、夢から覚めても気分が落ち込んでいる様なんです。」

「どんな夢なんですか?」

「夢の中で、誰かが助けを呼ぶので、助けに行こうとすると、真っ暗な所に引きずり込まれそうになって、必死にもがくと、汗びっしょりになって目が覚める、そう言っていました。

その『助けて』と呼ぶ声が妙に真に迫っていて、気になっているのだ、と言っていましたね。」


ルーム・ノヴァスの伝説 (その 73)

kの回想 2

西暦751年 タクラマカン砂漠の北にある天山山脈北西部の タラス河畔(現在の中央アジア、キルギス領)で、高仙之率いる唐軍は、カルルク族の寝返りによりイスラム軍に敗北した。以後、ソグディアナのイスラム化が急速に進んだ。

ソグディアナとは、昔ソグドと呼ばれた人々が住んでいた中央アジア、今のウズベキスタン、タジキスタンの辺りである。

そこはユーラシアの中央に位置し、古来より東西の交通の要所として栄え、住民の半数が商人であると言われてシルクロードを支配していた。

その人々は751年の戦いを境として急速にその姿を消していったのである。

その5年後に東方の唐で安史の乱と呼ばれる内乱が起きた。この胡人(イラン系と言われる人々)による反乱は9年に渡り、それが鎮圧された後には唐の国内では胡人に対する弾圧の嵐が吹き荒れた。

その為、唐国内にいた東方ソグド人もやがて姿を消していったのである。

2001年9月
芦名史人は、ホテルのベッドの上でぼんやりとタバコの煙をくゆらせていた。テレビでは、貿易センタービルにジェット機が突入する映像が繰り返し流れていた。

高層ビルは崩壊し茶色い爆煙が吹きあがり、人々の逃げ惑う姿と助けを求める悲鳴が繰り返された。

前の夜、彼は不思議な夢を見た。大勢の人々が、北方の山中に逃げていたが、そこへ騎馬の軍隊が襲い掛かり人々は虐殺された。逃げ惑い助けを求める声が耳に残り、彼は夢中になって人々の元へ走ろうとした。しかし、真っ暗な穴に引きずり込まれ、自らが危地に立ってしまう。
そこで目が覚めたのだ。

彼はテレビの映像と、夢との区別がつきにくかった。
ただ、あの夢の中の叫び声は心に残っていた。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 74)

kの回想 3


今、私はザラフシャン山脈のムグ山にいる。ここに逃げてきた大勢のソグド人たちとともに。私の名前は芦名思魔、日本人だった。今の私はロクサーヌという名前でシルクロードの商人としてここにいる。


今は、西暦で722年、アラブの軍隊がサマルカンドに攻め入って、間もなくここにも来るだろう。歴史を変えることはできない。ここで14000人のソグド人が殺されたのだ。私がここで死ぬことになったとしても、それは定めなのか。


だが、何故私はここにいるのか?それが問題だ。

ロクサーヌがここで死ぬとしても、芦名史人である私はどうなるのだろう?


1週間前までは私は2001年の日本にいた。池袋のアパートに一人の学生として生活していたはずだった。

私の記憶ではそうだ。


あの日、朝からテレビでは貿易センタービルが破壊される映像が繰り返し流れていた。それから私の頭には助けてという人々の声が聞こえ、離れなくなった。


私は夢を見ていた、助けを呼ぶ声に、応えようとして振り返ったのだ。

深く暗い闇の中に引きずり込まれ、気が付くとサマルカンドにいた。


ここでロクサーヌはアラブ軍から逃げる人々の中にいた。人々の叫びの中で、助けを求める為に手紙を書いていた。唐へ手紙を出すために、シルクロードのキャラバン隊に頼むつもりだったのだ。


この手紙が唐へ届いたとして誰が読むのだろうか?

この手紙が誰かの目に留まることがあれば助けて欲しい。

ただ、神に祈るのみだった。


ルーム・ノヴァスの伝説 (その 75)

kの回想 4


私kは、友人である芦名思魔を連れて貿易風に行った。


「こんにちは、マスター。今日は、この前話した友人を連れてきました。芦名です。でも、様子が変なんです。自分は安禄山だと言うんです。」


「安禄山、変わった名前だね。確か、中国の歴史で、安史の乱というのがあるけれど、その時の首謀者が安禄山というんだ。その人と同じ名前かな?」


「ええ、その安禄山だというのです。何でも、自分は唐を救いそれから故郷のサマルカンドを解放するために戦っている、というのです。」


「サマルカンド?それは中央アジアの、今はウズベキスタンの首都じゃないのかな?」


「ええ、そこに自分たちの故郷があり、その故郷がアラブ人に征服されたので、その仲間を助けに行くと言っています。自分はソグド人だというのです。」


「それは、かなり危ない話だね。また仮に、安禄山だったとしても、今は2001年だ。今から行っても間に合わないよ。その事件は、1300年くらい前の話だからね。何故そんなことを言い出しているんだろう。」


「全くおかしなことを言っているんです。芦名史人という名前には聞き覚えが無いと云うんです。1週間ほど寝込んで気が付いたら芦名のアパートにいたと言ってます。」


「でも、外見は芦名君で変わりないよね、僕も何度か見たけど。芦名君の家族はどうしているんだろう。」


「彼は一人暮らしだったので、連絡先を大家さんに聞いてみたけど、芦名思魔という人は知らないと云うんです。MK不動産というう所で貸しているというので、その不動産屋に聞いてみたら、そこは社員寮でした。」


「社員寮?何という会社の?」


「パキスタン人の東方貿易という会社です。今住んでいるのはアシュクという名前で1週間前にパキスタンンに一時帰国したと言っていました。」


「それでは芦名思魔はどうなっているんだ?」


「やはり知らないと言っていました。」


「すると、この安禄山さんはどうするんだ?そのアパートに居ても大丈夫なの?」


「身分証もないのです。運転免許証も、保険証も持っていないようです。ただ、家賃は払ってあるので、すぐに追い出されることは無いようですけど。」


「でも、その様子では一度病院に行った方が良いのじゃないのかなぁ。記憶喪失というか、何かノイローゼとか精神の病の可能性があるよ。」


「そうですよね、でも保険証がないと医者も見てくれないですよね。」


「一応、アパートを見て、何かその人のことが分かるものがないか、調べるしかないのじゃないかねえ。君はその芦名思魔君とはどういう知り合いだったの?」


「芦名とはアルバイト先で知り合ったんです。中華料理屋の皿洗いでしたけど。彼は学生だと言っていました。だから大学に行けば、何か分かるかも知れません。」


ルーム・ノヴァスの伝説 (その 76)

kの回想 5


数日の後、貿易風でマスターと芦名のことを話した。


「アパートに彼の学生証がありましたので、大学に行ってみましたけど、1か月くらい前から休んでいるようでした。実家は秋田県の比内町西舘でした。


確かにいたようですけど、実家に聞いても今は連絡がないようでそれ以上はわかりません。

安禄山さんは、事態が呑み込めずに困っている様です。

外見は芦名ですが、中身は完全に入れ替わっているみたいです。」


マスターが尋ねた。

「安さん、あなたはどうなんです?今、自分の状況が分かりますか?」


「私は、ここがどこなのか、何故自分がここにいるのかは分かりません。しかし、自分が安禄山で、ついこの前まで、戦いの中にいたことはハッキリ覚えています。


自分は史思明と共に、玄宗皇帝の過ちを正し、楊一派を排除し天下の政道を正す為に起ち上がりました。


それというのも、昔若かった頃のある晴れた春の日の事ですが、いつものように馬を駆って、草原を行く隊商を監視していた時のことです。


少し休もうと思って、木陰に馬を止めてウトウトとしました。すると、夢の中で、奇妙な若者が現れ、人々を助けに来て欲しいと言うのです。


彼は、私を連れて竜に乗りました。そして空高く舞い上がり、中国の全土を見渡し、それから西の彼方、西域諸国を見ました。そこが私たち一族の故郷だと知りました。


そこへ更に西方から一団の軍隊が現れ、人々は逃げ惑いました。北方の山の中に逃げた人々はやがて全員が殺されました。


その悲鳴を聞いているうちに『助けて』と呼ぶ声が強く耳に残りました。

若者はまた私に『助けに来て欲しい』と言いました。


それから気が付くと、また元の木陰にいました。あまり不思議な夢だったので、私は胡人の商人たちに調べてもらいました。


そこで判ったのは、西の方でアラブ人たちが攻めてきて、私たちの先祖の土地が奪われ、中国の西域も脅かされているということでした。


私はまだ18歳でした。それから貿易の仕事をし、情報を集め、胡人たちの仲間を作りました。30歳の頃、張守珪節度使の下で軍の任務に就きました。そうして力を蓄えたのです。


唐歴天宝十年(西暦751年)玄宗皇帝の軍隊はアラブ人と戦いましたが、カルルク族の裏切りに会い、タラス河畔で敗れました。


皇帝は楊貴妃との生活におぼれ、政治を怠り始めました。このままでは故郷のみか『この中国もアラブ人やチベット人に奪われてしまう』と思い、唐歴天宝十四年(西暦755年)に史思明と共に蹶起したのです。


私は、中国と西域諸国を蛮族から救うつもりでした。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その 77)

ジームラ・ウントの宇宙船団で

「総理、ペーシュウォーダが見つけたという青い星が分かりました。タブレットに反応したのです。」

「そうか、ついに見つかったか。それは何処なのだ。」

「銀河系内の太陽系にある第三番惑星で彼らは地球と呼んでいます。」

「それが青い星で間違い無いのか?」

「はい、タブレットを通じて、彼らの惑星の歴史を調べました。彼らにはドラゴンの伝説と、彼らは泥から作られた人形である、という神話があります。大洪水の時に聖なる山に逃げたという神話も一致します。」

「そうか、それこそが我らの伝説のルーム・ノヴァスだ。我らの為の星だ。」

「はい、後は彼らと平和的に共存できるのかが問題です。」

「彼らも、ペーシュウォーダの創世記を読めば理解するだろう。しかし、地球が我らのルーム・ノヴァスだとすると、彗星が来たのではないか?」

「はい、しかしメサスの神官だったセルナと云うものが自らを犠牲にして破壊したようです。」

「彗星を破壊したのか。やはり、そこは選ばれた惑星なのだな。」

「はい、天界の銀河にあったという12の青い星の一つに間違いありません。
ですが、地球人はこちらを警戒しているようです。戦いにならなければ良いのですが。」

「そうだな。慎重に進めねばならない、彼らはまだ、天界のことを知らないのだから。彼らの文明がどの程度のものか見極めることが必要だ。」

研究室で。

私オリガは、タブレットが再び動き出したのを見た。

「アラン教授、タブレットが光っています。動き始めています。何かが記録されているようです。」

「どうしたのだ、新しく記録されるとは、どういうことなのだ?」

「何故かは分かりませんが、何者かが操作しているのでしょうか?それとも、自動的に動き出したのでしょうか?シミュレーターの中に取り込みますか?」

「いや待て、それは危険だろう。タブレットとシミュレーターの接続をいったん解除してくれ。」

「はい、解除しました。」

「何を記録しているのか、解読できるかね?」

「はい、途中までですがやってみます。」
・・・・・・
「教授、ジームラ・ウントが青い星を発見した。彼らのルーム・ノヴァスを発見した、と書かれています。」

ルーム・ノヴァスの伝説 (その78)

875年の世界に。

その頃中国では、唐で黄巣の乱が起こり、滅亡への坂道を下っていた。

モンゴル高原では、ウイグル帝国がキルギスに追われ、後にトルキスタンと呼ばれる西域地方に移動し、東西に分裂した。

かつてのソグディアナはマー・ワラー・アンナフルとアラビア語で呼ばれていた。

アラブ人は、イスラム教を根付かせるために占領した地域に植民し、アラブの守備兵と行政官が各民家の半分を占領して住み込み、住民がイスラム教の戒律を守るかどうか監視した。

それまでの仏教やマニ教、ゾロアスター教、キリスト教などの各教典は焼き払われた。
またイスラム教に改宗したものには税を免除し、そうでないものには人頭税を課した。

このような政策によってイスラム教は、強制的に押し付けられた。
その為、中央アジアにイスラム教が定着するためには18世紀まで千年の月日がかかり、その間何度も反乱が起きたのである。

875年、かつてバクトリア(今のアフガニスタン方面)のゾロアスター教神官の家系であったナスル1世はサマルカンドを首都としてサーマーン朝を開いた。

イランから西の方面はアッバース朝の支配下であり、サーマーン朝もその配下であったが、イスラム世界の東の防御壁としてチュルク人の侵入に対抗していた。

サマルカンドはその時代、比較的平和であったと言える。

その日、ロクサーヌはご主人様たちと、キャラバンのラクダや馬の世話をしていた。
 そこへ、丁仙之とセルナが現れた。
「やあ、ロクサーヌ久しぶりだね。」

ミトラが言う。
「お前、丁仙之、何が久しぶりだ。一体何しに来たんだ。」

「お前、とはご挨拶だね。今日はロクサーヌに、新しい任務を伝えに来たんだよ。」
私ロクサーヌが言う。
「ちょっと待って、任務って、私はあなたに雇われたわけじゃないわよね。」

「まあ、本来はkが伝えるべき事だけどね。kは事情が当て動けないので、代わりに伝えに来たのだよ。今回は、ロクサーヌが以前あったことのあるペーシュウォーダの『創世記』という書物を探してもらいたいのだ。」

「ペーシュウォーダって、あの龍神様のこと?」

「そうだ、ただ今回は日本ではない。コーカサス地方またはメソポタミア地方に言ってもらうことになる。それで、ここにいるセルナ君だが、一緒に彼の実家へ行って探してもらいたいのだ。セルナ君、後は君から説明してくれ。」

「あ、はい。セルナと申します。よろしくお願いします。」

セルナ君が、これまでの経緯を説明した。

私はセルナ君に尋ねた。
「セルナ君は、実家がコーカサスなの?」

「あ、はい。コーカサスのメスティア村です。」

「どんなとこなの?」

「黒海寄りの地方で、塔のある村です。」

ご主人様が口をはさむ。
「それは、人々が塔のような家に住んでいるという村のことかな?」

「はい、そうです。家がみな塔になっていて大勢で住んでいるんです。」

ご主人様が言う。
「そうか、そこなら昔行ったことがある。しかし、かなりの田舎だったような気がするが、そんな所にあるのか?」

「それが、僕にもよくわからないのです。それで、皆様に一緒に探してもらいたいのです。」

私たちは、『創世記』を探しにコーカサスへ向かうことになった。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その79)

カスピ海沿いに進み、イランのタブリーズにくる。ここから更に北上し、アララト山を見た。

アララト山は大アララト山と小アララト山の2つの山からなる独立した山である。
大アララト山は標高5000mを越え、小アララト山は3900m程である。
小アララト山はその姿も、山の高さも驚くほど富士山に似ている。


私はセルナ君に尋ねた。
「アララト山には、何もないのかな。ノアの箱舟の伝説の山だよね。」

「はい、伝説はそうですけど、僕は登ったこともないのです。でも、メソポタミアとコーカサスの中間にあるので、何かしら関係があるかも知れません。しかし、ここに隠されたとしたら探しようがないですよね。」

当時はアッバース朝の支配下にあったが、地元のアルメニア人が地方君主として支配を任されていた。東ローマや北のハザール帝国との争いも頻発し安全とは言えない状況だったからだ。

アララト山を過ぎて北西へ向かうと、コーカサス山脈が見えてくる。5000m級の山々が連なり、万年雪が美しい。だが、ここは古代から民族の行きかう峠道でもあり、戦火の絶えることの無い地域でもある。

メスティアの村はその中にある。男の子が生まれると、2歳のころから馬に乗る訓練をする。馬は移動のための手段でもあり、戦うための武器でもある。

塔の家は高さ20m程で、中は思ったよりずっと広い。これは、休むための家でもあり、戦うための砦でもある。常に戦場を意識して生きなければならない世界である。

メスティアの人々は形式的にはキリスト教徒であったが、それは仮の姿、身を守るためであった。ここは、キリスト教、イスラム教、ミトラ教など古代から様々な宗教が争ってきた土地であり、人々は、人種や文化、民族などではなくむしろ宗教によって分かれていた。

東ローマ帝国、ペルシャ帝国、イスラム帝国など巨大な帝国が、宗教によって統一を図り、異端の宗教に対しては徹底的に迫害したのである。

その為、異端とされた人々はその信仰を隠して生き延びたのである。

彼らの真の信仰は太陽神を中心として祀る多神教であった。

セルナは教会へ向かった。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その80)

メスティアの教会で。

石を積み重ねて作られた教会は何処から見ても同じ正六面体であった。
薄暗い茶色と灰色の古めかしいその教会の、重そうな入り口の前まで来ると、セルナの脳にオリガの声が響いた。

教会のドアの先からがセルナの記憶の世界になっているという。セルナは少し緊張しながら、ドアを開けた。

中は暗く、明かりはいくつかのロウソクの灯だけだった。しかし、柱のそばに設けられた疎の燭台の灯はオレンジや、赤、黄色などのロウソクを浮かび上がらせ暗黒の宇宙に光る星のようであった。

燭台には羊皮紙に描かれ古代文字のようなものが見えたが、読み取ることはできなかった。ロウソクの周りには祈りの花が供えられていた。

壁面の上方に小さな窓があり明り取りかと思われるが、戦火の多いここでは、教会に隠れて籠城した際の通気口なのかもしれない。

暫くして暗闇に目が慣れてくると、部屋の奥の祭壇のそばに人がいた。祭壇の上部には聖マリヤのイコンと並んで、太陽の絵があった。太陽はその炎がぐるぐると渦を巻いていた。司祭と思われるその人は、こちらに気が付いたのか、祈祷の手を止めた。

司祭のその顔がこちらに振り向いた。その眼は燃える太陽のようであり、炎が渦を巻いていた。その渦巻きを見ているうちに、教会の壁全体がピンク色に輝き、回転するドリルで掘られたトンネルのようになり、私たちはその渦巻きに取り込まれた。

雷のように大きな声がした。気が付くと、教会の外にいて、コーカサスの山々が見えた。
その人は、何をしに来たのかと、尋ねた。セルナが答えて、事情を説明した。その人は、その書物のことは、知らないと言った。だが、求めるものがあるのならば、それは叶えられるとも言った。

その人が言うには、ここの人々は、はるか昔に南から来た。幾つもの時代が過ぎ去り、昔の風習も失われたが、太陽への信仰は変わらずにある。それは燃える炎への信仰であり、火が全ての悪を焼き払い浄化してくれることへの信仰である。

幾つもの帝国や軍隊がこの人々を苦しめたが、この人々を滅ぼすことはできなかった。それは、この人々の信仰の強さがあったからだという。

セルナに聞いた。「あなたは、その求めるものを信じていますか?」

セルナは、何を問われているのか?と思った。
『創世記』の話も、今のセルナにとっては知らないどこか遠い世界の話であった。
それを『信じているか?』と問われても、答えに窮したのである。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その81)

ジームラ・ウントの宇宙船団で。

「総理、タブレットがセルナの記憶の世界につながりました。
セルナがメスティアの教会に入ったのです。ですが、セルナは記憶が不確かのようです。

このままでは、『創世記』を見つけることはできないかも知れません。
如何致しましょうか?」

「セルナに『創世記』の記憶を取り戻させねばならない。何か良い方は法無いものか。」

「では、使いの者を送りましょうか。そのものとの対話で思い出させるのは如何でしょうか?」

「そうだ。使いを送ろう。その様に手配してください。」

メスティアの教会で。

司祭の質問にセルナは応えられなかった。何を求めているのか?それすらも分からなかった。

私ロクサーヌは見かねてセルナにこう話した。
「無理に思い出そうとしなくても良いのではないですか。
思い出すのではなくて、今のあなたが求めているものをゆっくり探せばよいと思うけど。」

ミトラも言う。
「そうだよ、思い出そうにも脳みそが半分になってるのだから仕方ないよ。それよりも、ここはヨーグルトが旨いって聞いた、それを食べたらどうだ。」

ご主人様も「そうだ、まずは腹ごしらえしよう。そうすれば何か良い考えも浮かぶだろう。サマルカンドから、休みなく旅したのだから。休もう。」

私たちは教会の司祭にお願いして、村の市場へ案内してもらった。

市場で食料を仕入れ、教会に戻ると夕食の支度をした。コーカサスと言ってもアラビアに支配されて100年は立っている。かなりアラビア風の料理になっていた。

羊の代わりにひな鳥の焼肉を食べた。そしてチーズ入りのパン。カスピ海ヨーグルトなど。
名物は葡萄酒だ。『葡萄酒を飲み干すように敵を飲め』というのが挨拶だった。

その夜は教会に泊めてもらった。

夜、眠り込んだセルナの夢に、マナフと名乗る使いが現れた。セルナが高原の川で水を汲んでいると、南の方角から、木の枝を手にしたマナフが近づいてきた。

そして「お前は何を求めるのか、何のために努力するのか。」と尋ねた。
セルナは、昼間は答えられなかったのだが、今はすぐに答えることができた。
「僕は、正義を求めています。正義のために努力するのです。」
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歴史的事実に改編を加えた妄想小説です。

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