fc2ブログ

ルーム・ノヴァスの伝説 (その92)

ジームラ・ウントの宇宙船団で。

「総理、使いの者は失敗しました。」

「何故だ、セルナが拒んだのか?」

「いいえ、あの星の者たちが、使いの者を疑ったのです。
彼らは、使いの者たちに反発したようです。そして、あの星にいた人々が、彼らの信仰ゆえに、疑い、敵だと見做したようです。」

「信仰ゆえに、疑うとはどういうことなのか。異なる信仰があるのは当然ではないのか?」

「彼らは、幾つかの信仰に別れて、其々が正義を主張し戦っているのです。」

「その様な事で、どうやって平和を伝えるのだ。」

「昔、ラガシュ王国は、メソポタミアで、隣国と200年戦いました。彼らは当時、和睦すると言うことを知らなかったのです。ラガシュ王国の王が初めて、平和条約を結びました。しかし、その後別の帝国に滅ぼされてしまいました。」

「では、彼らも平和条約を結ぶという事は知っているのだな。」

「はい、条約を結ぶことで争いを防ぐと云う事を学んではいるのですが、問題は狂信者なのです。彼らの中には、死を恐れずに信仰の為に、正義の為に戦おうとする者がいます。

理性的な判断よりも、名誉や誇りという感情を重んじるのです。」

「すると、彼らと共存する為には、その精神を変えねばならないという事か。」

「はい、その精神が問題なのです。文明の力をもってしても、死地へ向かう者を、抑えることは出来ません。その場合、全滅するまで戦いが終わらない可能性があります。

彼らの中に伝わる言葉があります。
『屈辱の中で死ぬならば、せめて何か有益なことをして死のう』

これは、ソグド人がアラブ人に攻撃され、人質となり奴隷となった若者たちが、アラブの将軍を襲い、その後に自殺した、その時の言葉と言われています。・・・」

「それでは、戦えば彼らの星を破壊することになるではないか。」

「地球を観察しましたところ、彼らは大陸の西から東まで、あらゆる所で戦いが蔓延しています。彼らは、戦うことに躊躇しません。それは、これからも変わらないでしょう。

このような星の住民と戦っても、我らは10万人しかおりませんので、戦いは永遠に続くでしょう。」

「うむ・・・。」

「ただ、やはり彼らの言葉で『死を望むものは愚かだ、栄光の中で死ぬよりも、悲運の中で生き長らえ方がましだ。』このような詩もあります。

彼らも、いつの日か平和を優先する日が来るかもしれません。」

ルーム・ノヴァスの伝説 (その93)

研究室で。

ロクサーヌから、報告が入った。
「アラン教授、ロクサーヌからの報告ですが、どうやら『創世記』は手に入らないようです。龍神が言うには、今の人類のレベルでは正しい理解が難しく、誤って理解するとかえって危険だという事です。」

「ロクサーヌに繋いでくれ。」

「はい、承知しました。」私は、ロクサーヌの映像を呼び出した。

「ロクサーヌ君、もう少しわかるように説明してくれないか。」

「はい、龍神が言われているのは、平和についてなのです。新しい知識を覚えても、それをどのように使うか、それを使いこなすだけの資格があるのか、と言われます。

それを、戦争の目的で使うのであれば、反対だとのことなのです。」

「しかし、新しい知識は戦争だけでなく、人々が平和に暮らしていくためにも必要なのだ。
資源は限られている。このまま人口が増え、人々がより豊かに生活するためには、より多くのエネルギーが必要だ。

今のままでは、やがてエネルギーも枯渇し、豊かな生活が維持できなくなるだろう。」

「その新しい知識を、平和利用だけに限る方法はありますか?かつて、原子力エネルギーも平和のためと言いながら、結局は戦争目的で世界中に拡散しました。

ルールを決めても、それを守るだけの精神があるのでしょうか。龍神様はその精神が未熟だとおっしゃるのです。

戦争に使わないと、約束できますか?」

「うむ、それは出来ない。今、宇宙から侵略者が来ているのだ。それと戦わなければ、地球が守れないのだ。」

「やはり、戦争に使うのですね。平和を守ることが出来る精神に進化するまでは、『創世記』の知識は得られないのだと思います。セルナ君をそちらへ返します。」

「仕方ない、オリガ君、セルナ君を戻してくれ。今回は失敗だ。僕は、連邦政府へ行ってくる。ウシュパルク教授にも
今夏の事態を説明するつもりだ。」

連邦政府の会議室で。

アラン教授はウシュパルク教授に会った。

「ウシュパルク教授、今回はロクサーヌを使っても『創世記』を得られませんでした。ロクサーヌが龍神に会っても、私達に『創世記』を渡すことを断られたのです。」

「どうしたのですか?」

「龍神は、私達が戦争に利用することを警戒したようです。あれは、平和利用に限らないと危険な知識だそうです。」

メルブ課長が、報告した。
「アメリカ連邦からの報告ですが、アメリカは今回の宇宙船団に対して攻撃をするつもりで、準備を始めました。もし、連邦政府が参加しない場合は単独で攻撃すると言っています。恐らく、大統領選挙の対策の為だと思われますが。ここで、愛国心を呼び起こすつもりでしょう。」

アラン教授は、ERUとしては、今攻撃するのは危険が大きいとして反対した。
ウシュパルク教授も、相手が攻撃するのかどうか、不明な段階での戦争には反対した。

ルーム・ノヴァスの伝説 (その94)

十和田湖で。
ミトラがセルナに声をかける。
「セルナ。お前はこれからどうするんだ。また研究室で働くのか?」

「はい、ここで皆さんとお別れです。お世話になりました。」

「結局、何も見つけられずに、すまなかったな。」

「いえ、僕の方こそ、助けていただいて有難うございました。それから、龍神様にも亜wましたので、何か、もう一人の僕が少し理解できた気がします。」

「そいつは、最後は彗星になって、自分で爆発したんだろう。普通そこまでは出来ないよ。たいした奴だな。」

「僕は、その時何が起きていたのか分からなかったんです。けれど、もう一人の僕は、真剣に地球と、惑星ルーム・ノヴァスの両方を救おうとしていたんだと思います。

分かったんです。争いで解決しようとすると、『暗黒』を呼び寄せるんだな、と。つまり、『暗黒』や彗星は、自分の心が生み出しているのだな、と思います。

龍神様が言っているのは、そのことなのだなと思いました。」

私は、ご主人様に聞いた。
「で、私達はこれからどうしますか。」

「トシマクのピアノバーで聞いたんだが、青森においしい酒があると云うんだ。津軽三味線を聞きながら飲めると言っていたな。」

「恐山もあるし、青森に行きましょう。」

ミトラが言う。
「ついでに北海道もいけたらいいですね。」


研究室で。

アラン教授は、会議から戻って、『創世記』を探すことは無理だったと言った。
宇宙船団に対し、アメリカ連邦は攻撃をする可能性があるとも言った。

この先どうなるのかは分からないが、タブレットの解読を通して分かったことは、私達の文明はまだまだ未熟だという事だ。

このタブレットを創った人々は、戦争の愚かさを知っているのだろう。戦争を呼び込むのは、私達の心なのだ。だが、あの『隠されたルーム・ノヴァス』のように、戦争を否定する世界があるはずだ。そこへ向けて文明は進むしかないのだ、そうでなければ戦争で滅ぶのだから。

しかし、アラン教授が、戦争に反対してくれたことは良かった。ウシュパルク教授とも協力してくれた。以前は、自分のことしか考えない人かと思っていたが、そうではないことが分かって良かった。

これからも私はこの研究所でアラン教授の下で研究を続けるだろう。その前に地球が滅ぶのかも知れないが、結局私達は、私達にできること、研究を続けるしかない。

タブレットが、再び動いた。
「メスティアの村に方舟が送られた・・・」

                   ― 完 ―

ルーム・ノヴァスの伝説は、終了です。お読み頂きありがとうございました。


『kの回想』 13

 ロクサーヌは、子供の頃を思い出していた。

 彼女の父親はサマルカンドで葡萄園を経営していたのだが商売に失敗して土地を奪われてしまった。彼女はまだ子供だったのだが、奴隷として売られてしまった。

 両親と別れて、キャラバン隊を率いていたザヒルという男に引き取られた。やがて踊り子としてキャラバン隊の一員となり、ペルシャやへまた中国へと旅する暮らしをするようになった。

 両親の愛情に恵まれず、ただ働くだけの毎日だった。それでも懸命に生き抜いてきた。彼女の希望は、別れた両親といつかめぐり合い暖かい家族の生活を送ることだった。

 奴隷ではあったが、生活に不自由したわけではなかった。唯、愛情が欲しかっただけだった。ザヒルは、ひどい人ではなかった。彼女に文字も教え、舞踊も教え、一人前の商人として生きることも教えた。

 ただ奴隷であった為、彼に逆らうことは出来なかった。彼女の命はザヒルの心のままだった。

 そこへ、アラブの軍隊が襲ってきた。キャラバン隊はバラバラになり、逃げまどいザヒルとも離れ、彼女は押し寄せる軍馬の中に倒れ、意識を失っていた。

 死ぬかと思ったその時に、彼女は思い切り叫んだ。実際には声は出なかったのだろう。
しかし彼女はこのまま死んでゆく自分が可哀そうで、理不尽なこの運命に怒りが湧いてきたのだ。

 一体何をしたというのか。生れてきて、両親と生き別れになり、愛情にも恵まれず、ただ奴隷として働き、最期は見知らぬい異国人の手にかかって死んでしまう。
死にたくなかった。助けて欲しい、そして愛情が欲しかったのだ。

そう強く思った時に、彼女の意識は身体から離れた。横たわる自分を見ていて、不思議な感じがした。自分は死んだのだろうか。

 だが、その時自分の身体に誰かが入るのを見た、と思った。その内に、自分の身体は起き上がり走り出していた。必死の形相で、脇目も振らず走り、アラブ人から遠く離れた山の中に入っていった。

やがて、別れたはずのザヒルのキャラバン隊と再会し、彼の隊商の一員として、再び歩き出していたのだ。

彼女には、芦名の姿が見えていた。自分の身体に入り、自分として生きていた芦名が、何の邪心もなく、ただ助けに来ただけだと分かり不思議な安心感を覚えたのだ。ずっと彼を見ていた。そして、彼の意識が自分の身体を無事に助け出したのを見て、彼女は『自分はどうすべきなのか』を考えていた。

『kの回想』 14

あるビルの一室で。

袖口に二本の朱の線の入った黒い長衣を着た男が、聴衆に向けて熱心に語りかけていた。

「心=意識と、肉体は見えない糸で結ばれているのです。

 心は肉体の脳の電気作用ではないのです。脳というのは例えて言えば、機械を動かすオペレーターであり、記憶装置であり、データを分析し判断を下す機械なのです。

 しかし、心は自分の意識です。我という意識なのです。それは肉体に宿り、その肉体を乗り物のように乗りこなすのです。記憶されたデータと分析装置を使い、運動能力を用い、感情能力を用い、感動を感じるのです。

 ですから、あなた方がこの肉体を愛しく思い、この現在に愛着し、この人生を生きたいと強く思う限り、死ぬことはありません。

 しかし、この世を辛く思い、自分の記憶と肉体を愛する事ができず、自分の周りの人間関係や、生活の状況、それらを疎ましく思い、希望を失った時、死が訪れます。

 あなた方が正義の実現を祈り、真実を知り、苦しみから救われることを毎日祈るならばそれは必ず叶えられます。

 私達は、神の国を実現する為に、ここに集っています。
神使者のイリヤス様から具体的に説明してもらいましょう。」

紹介されたのは、袖口に金色の太い一本の線が入り、胸元に鳳凰の刺繍のある白い長衣の男だった。

「神使者のイリヤスです。
我々は、秋田県の十二所郷に、土地を用意しました。そこで、農場を開拓し、野菜やコメを作っています。また牧場では、牛馬羊などを放牧し、鶏や豚を飼っています。山林も所有しています。

 つまり、基本的な食糧の自給自足は可能な状態となっています。信者の中から、工業生産の能力を持つ人を集めて、日常必要とする工業品は生産できています。

 また、貿易や交易を行う商社も持ち、必要な商品を取引し入手しています。生産品の販売も行っていますので、事業としても成功しています。

 つまり、今までの様な、信じるだけの宗教と我々は違うのです。実際に生活し自給自足し、また交易を行うことで、一つの国と同様の社会を形成しているのです。

 我々は、信仰を強制することはありません。自発的な意思により集まる人だけを受け入れています。ここでは、やりたい仕事もできます。皆さんのアイデアで新しい事業を興すことも可能です。

 その為に必要な、資金も調達できます。我々の信じるところに賛同してくれる人々の自発的な意思によりマイクロファイナンスが運営されているのです。

 悩みを、一人で抱え込まずに、話してください。我々は悩む人々を受け入れます。新しい生活を始めましょう。

 先程の話しにも在りましたが、肉体は心の乗り物に過ぎません。しかし、乗り物がなければ。心は喜びを感じることができないのです。その意味で、心を具現化するのが肉体であります。

 肉体を健康に保つことで、心は正に自由になるのです。ですから、我々の国では人々は運動を楽しんでいます。また各種の学ぶための施設もあります。全ては心を自由にし、平和を実現する為です。」

『kの回想』 15

芦名思魔の意識は、ソグディアナの大地を漂っていた。身体を失い今は心だけとなっていたが、どこへ向かって良いのか定まらなかったのだ。

ロクサーヌの心は芦名の傍にいて、自分の身体が芦名によって危地を脱し、そして羽栗翔の母親という女性の身体に変わったことを知っていた。

ロクサーヌは芦名に話しかけた。
「芦名さん、私はロクサーヌです。私を助けてくれてありがとう。」

「あなたは、ロクサーヌ、あの女性の心ですか。私が見えるのですか?」

「はい、死んだはずの私の身体をあなたが助け、そして羽栗さんが今は私の身体に乗って生きていること、私は全てを見ていました。」

「そうですか。では、あなたは、私のこの状態がどういうことなのか分かるのですか?

私は21世紀の日本に生きていましたが、ある日突然心だけがこの世界にやってきて、あなたとして、あなたの身体に乗って生きていました.

ですが、今はまた、身体を失い意識だけがある状態です。正直途方に暮れています。」

「私も、心が身体から離れ死んだのだと思いました。でも、身体はその後も動いていて、あなたとして生きているのを見て、とても不思議な感じでした。

私は意識だけとなり、この世界を彷徨っていました。すると、ある方が現れ、私を大きな乗り物に連れて行きました。そこで、私は色々なことを教えてもらいました。

今では、自分の状態が少しは理解できるようになりました。ですから、もしあなたが、私を信じてくれるのなら、一緒にその乗り物の処へ行きたいと思っています。
その人達に会えば、少しは理解できるのだと思います。」

「分かりました。では一緒に行きます。連れて行ってください。」

二人は共に砂漠へと進んで行った。すると、何もない砂漠の中に、巨大な建物が在った。銀色に輝き、楕円形をした卵の様な建物に見えた。入り口が現れ、二人は中に吸い込まれていった。

中に入ると、白い長衣を着た男が穏やかな表情で迎えてくれた。

「ようこそ、芦名さん。私はこの船の船長でジェライルと言います。初めてお会いしますが、私はあなたの敵ではありません。安心して、知りたいことを何でも聞いてください。」

『kの回想』 16

芦名は、船の中でジェライルから、意識と身体の違い、身体は意識の乗り物であること、彼らが意識を学びながら宇宙を旅していることなどを聞いた。

全てを納得したわけではないが、反論するだけの知識もなかった。最後に、ジェライルから宇宙を共に旅してみないか、と誘われたが断った。

「私は、前の世界に戻りたいと思います。意識について、もっと学びたい気持ちもありますが、それよりも元の世界に帰ってみたいのです。」

「そうですか、分かりました。では、あなたの新しい身体を用意しましょう。あなたの前の身体は、今は安禄山という人になっています。

これは、私達が作った超細胞で出来た身体です。個々の細胞は光のエネルギーを取り入れて無限の命を持っています。外見はあなたのイメージに合わせて作られます。

ボディスーツの様な物だと思って下さい。これを着て帰ることが出来ます。
ロクサーヌ、あなたはどうしますか?」

「私は、芦名さんと一緒に行きたいと思います。自分のいた世界では良い思いではありませんでした。でも、自分の思うとおりに自由に生きてみたいと思います。」

「分かりました。では、あなたにも新しい身体を用意しましょう。それから、これはヘッドフォンのようなものだと思って下さい。

また何か困ったことがあれば、これで私達と連絡を取ることが出来ます。
私達はいつもあなた達を見守っています。」

「一つお聞きしたいのですが。」

「何でしょうか。」

「どうして、私達を助けてくれたのですか。」

「私達は、あなた達に興味があるのです。普通の人類は、あなたたちの様に強い意識を持っていません。しかし、あなた達の意識のエネルギーはとても強い。

その強い思いに惹かれて、あなた達を見ていたのです。これから、あなた達がどう生きるのか、そこに興味があるのです。それでは、いけませんか。」

「分かりました。とにかく助けて頂いて、ありがとうございます。」

「さあ、こちらに来てください。このパネルを見てください、意識を集中してください。
ここです、このホテルのロビーに行きます。さあ、気を付けて、よい旅を。さようなら。」

気が付くと、二人はホテルのロビーにいた。ガラステーブルの上には、カップが並べられ、コーヒーを飲んでいた。二人は突然、このホテルに来たのだが、周囲は何もなかったように静かだった。

『kの回想』 17

貿易風で、私は安禄山とお茶を飲んでいた。

「安さん、仕事は順調ですか。」

「まあ、中華料理屋のアルバイトしかないけど、何とか食べていけるよ。」

「でも、この店も随分とお客が増えましたね、マスター。」

「ああ、そうなんだ。皆、安さんの友達なんだよ。外国人ばかりだけどね。ここで、みんな好き勝手に、自分達の故郷の料理を作って食べているんだよ。

皆、出稼ぎばかりだよ。喫茶店というよりは場所を貸しているだけで、店内のバーベキューみたいだよ。」

「マスターも料理を覚えて、エスニックレストランにしてみたらどうですか?」

「いや、実は料理は苦手なんだよね。コーヒーは作れるけど、他は僕には無理だね。」

安禄山が、急に思い出したように話す。
「そう言えば、この前アパートに若い男女が来て俺のことを調べていたみたいなんだ。それが芦名と名乗ったというんだ。」

「芦名?帰ってきたのかな。もう4か月くらいになるな。結局、どこへ行ったのか分からずじまいだったけど。翔は元気にしているの?」

「あいつは、勉強もせずに、遊びにも行かないで、一人で絵ばっかり描いているよ。変わった子だね。いつも黙っているし。」

「両親がいなくて淋しいのじゃないのかな。たまには、ここに連れてきたらどうですか?外国の料理も食べられるし、いつも中華じゃ飽きるんじゃないのかな。」

「そうだな、そうするよ。今度連れてこよう。」

「ところで、以前、安さんが話していた、ビルだけどね。」
マスターが、神妙な顔つきになって、話だした。

「池袋の高速の近くで青いビルがあったんだ。気になって、調べてみたら25階に世界統一平和教という宗教団体があったんだ。

本部はパキスタンらしい。教祖はブハラの出身だけど旧ソ連の崩壊の混乱で、パキスタンに逃げて、日本へは10年くらい前に来たらしい。

宇宙は善と悪の戦いの場で、自分は神の啓示を受けて、人類を救うために、戦っていると言っているらしい。」

私は、そんな話は信じられないと思った。
「今時、そんなことを信じる人がいるのかな。」

「でも、その人が手をかざすと、病気が治るというので、信者が増えているらしいよ。病気は悪で、病気にかかるのは、悪にこころが侵されているからで、その人が善の力を吹き込むことで悪を退治し病を治るというらしい。」

「治るのは病気だけですか?」

「いや、他にも事業に失敗した人には新しく仕事を世話してやり、借金に追われている人には借金を清算して、どこか別の処で生活できるようにしてやっているらしい。」

安禄山が驚いていう。
「へえ、それじゃあ凄く良い宗教じゃないですか。

でも、そんな、良いことづくめだなんて、怪しいな。お金は、どこから用意しているんだろう。新しい仕事とか、生活する場所なんてどうやって用意しているんですか?」

「それだけじゃない、行方不明になった人とか、死んだ人にも会えるという評判だ。でも、そこの信者になると、いつの間にか、どこか別の処に行ってしまって居なくなる、という話もある。」

「もしかすると、芦名や翔の母親の行方不明と関係があるのかも知れませんね。今度、そこへ行ってみませんか。」
私は、直接訪ねることを提案し、マスターも了解した。

『kの回想』 18

芦名とロクサーヌは、ジェライルが用意してくれた、百人町のマンションの一室にいた。

ロクサーヌは、仕事もなく自分を紛らすことが無くなると、元々抱えていた当た愛情飢餓からくる不安が強くなっていた。

「ねえ、芦名さんは、これからどうするの。あなたのアパートは、安禄山が住んでいるし、もう、あなたのいる場所はこの世界には無いじゃない。いても、仕方がないんじゃないの?

私も、することがないし、ただ毎日が無駄に過ぎて行くだけじゃない。一度ソグドに帰ろうかな。両親がどうしているのか気になるし。

それと、どうして私を売ったのか、愛してなかったのか、聞いてみたい。何だか苦しいのよ。わかる?

私は、生まれてきて、何も楽しいことがないの。親に愛されてなかったなんて、どうして生んだのか、聞いてみたい。謝って欲しいのよ。何で、こんな辛い人生を生きなきゃいけないの。

それとも、両親は私のことを心配しているのか、確かめてみたい気がするの。芦名さんは、ご両親はどうしてるの?」

芦名は、子供の頃を思い出すが、そこには母親の記憶がなかった。あるのは、行方不明になり、自分を置いて逃げ出した父親の記憶だった。
同じ愛情飢餓でも、芦名の心は冷たく凍り付いていた。

「僕の両親はもういない。父は子供の頃に行方不明になった。母は、僕を生んですぐ病気になったらしく、小さい頃に別れて会った記憶がない。

僕は叔父夫婦に育てられたんだ。もっとも、同居はしていなくて、父の家に一人でいたけど。」

「お母さんは生きているの?」

「いや知らない。誰も話さないし。僕も聞いていない。」

「淋しくないの?」

「淋しいさ、でも、仕方ないよ。生れてきた以上は、生きていくし、一人でも生きられるから。」

「ただ生きているだけじゃつまらないし、死んだ方がいいとは思わないの?」

「死ぬのは、怖いし、第一何故死ななきゃならないの?生まれた以上は誰でも幸せになる権利はあるだろう。

親がいなくても、死にたくはない。ただ淋しいだけで死んだら、悔しいじゃないか。そんな死に方はしたくないよ。」

「じゃあどうするの?何かやりたい事でもあるの?」

「何をやりたいかは、分からないよ。でも、まだ何もしていないのに死んでしまうのは嫌だ。何かはしてみたいと思っているよ。」

「私も、このまま終わるのは、悔しいと思う。あの時、本当に死ぬんだと思ったけど、すごく悔しかった。だから、私も幸せになりたい。

けど、どうしたら幸せになれるのか分からない。淋しいし、怖いし、不安なのよ。」

「焦ることはないよ。僕たちは不死身の身体を持っているのだから。これから、じっくり考えればいいさ。」

芦名は、初めは、先行きに不安なロクサーヌをなだめるつもりだったのだが、話すことで自分の気持ちを自分で理解しようとしていた。

『kの回想』 19

芦名は、ロクサーヌというよりも、自分自身と対話していた。
自身の感情を、外に向かって表明したかったのだ。
凍り付いたはずの胸の奥から、溶け出そうとするものがあった。

「僕は、あの日テレビで、倒壊するビルの映像を繰り返し見たんだ。大勢の人々が叫びながら死んでいくんだけど、その人達は突然訪れた自分の死の理由が分からないんだ。

一方で、ビルを攻撃した人は使命感をもって破壊し、人々を殺害した。彼らは正義の為だと思って、悪の支配を打ち破るために戦ったのだろう。

けれど、何が正義なのか、殺害された人々は本当に悪なのか、何も知らずに平和な日常を送っていたはずだ。これは、理不尽だと思った。その人達の声が聞こえた様な気がした。

その中で強く助けてという声が聞こえた。それが、ロクサーヌ君だったんだね。助けなきゃ、と思ったら、君のいた世界に来ていたんだ。

それまで僕は、人を助けなきゃなんて、特に思ったことは無いよ。他人は他人で、自分のことで精一杯だったから。そして、自分でもどうやって生きていいのか、分からなかったし、目的もなかったから。

ただ生きているだけで、死んでいるのと変わらなかったんだろう。でも、本当に死ぬんだと思ったらやっぱり悔しいよ。生きたいと強く思う気持ちが湧いてきて、あの理不尽さに怒りが湧いてきたんだ。

君の世界に行ってからは不思議なことの連続だったけど、でも今は生きてみようと強く思っているよ。」

池袋で。
私清原は、マスターの安倍と安禄山と共に世界統一平和教のあるビルの向かった。
「このビルの25階ですね。」
「でも、ワンフロアを全部使うなんて随分とお金があるね。」
「うん、元は難民だと言うからどんなスポンサーが付いているのか。」

25階でエレベーターを降りると、受付に向かった。
「翔という子の母親のことでお尋ねしたい事があるのですが。
代表のムスタグさんはいますか?」

「少々お待ちください。どちら様ですか?」

「安倍と云います。」

「面会の予約はありますか?」

「いいえ、東方貿易のミルザさんから聞いてきました。」

「ムスタグはここの代表ではありません。東方貿易とも、関係ありませんけど。どのようなご用件でしょうか?」

「どなたか、お話の分かる方は居ませんか?羽栗ロクサーヌという女性が、行方不明なんですが、最後にここに伺ったと聞いたものですから。」

男性が出てきた。
「アリシェールと申します。私がお話を伺いましょう。奥へどうぞ。」

プロフィール

gasset

Author:gasset
FC2ブログへようこそ!
歴史的事実に改編を加えた妄想小説です。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
11 | 2019/12 | 01
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR