fc2ブログ

NEXT LIFE  梢 1

 波多野と山川が消えてから、3か月になるが2人の行方は杳として知れない。

 鈴木から聞いた、神州光輪会という宗教団体についても特に目新しい情報はなかった。教祖は幾つか本も出しているが、悪い噂はない。

 気になることといえば、大陸や朝鮮半島とのつながりが一部で指摘されたことぐらいだ。それも、大陸や朝鮮関係の政治家と親しくしている程度で、実際に何か具体的な利権を得ているということではない。

 ただ、大陸出身者や半島出身者が事件を起こして起訴されたりすると、その支援活動をしているようだ。それについては、宗教的見地からの人道支援ともいえるので、非難されることでもない。むしろ、平和主義的な団体からは、評価されているくらいだ。

そんな時にルナで、新しい出来事があった。

「ねえ、梢ちゃんのお気に入りの置物が壊れちゃったんだけど、どうやって修理していいかわからなくて困っているのよ。」

ゆかりママが、そういって鈴木に尋ねた。

「置物ってどんな?」

「これなのよね、インド製の置物で石でできているの。」

「石か、こんなにスッパリと綺麗に割れていたら、何とかなりそうだけどな。でも、どこで修理できるのかな?kさん、どう思う。」

「見せてもらえますか。・・・あっ、これはガネーシャ。これって、梢ちゃんのですか?」

「はい、貰いものなんですけど。」

そのガネーシャには確かに見覚えがあった。切り口が山名の家で見たものと同じだった。

「梢ちゃん、これは貰いものって言ったけど、誰からですか?」

「ええと、それは・・・」

ゆかりママが代わりに答えた。

「大事な人からなんだって。」

私は、鈴木の顔を見たが、鈴木は気が付いていないようだった。

「大事な人って、もしかして波多野っていう人?」

「えっ、どうして?波多野さんをご存じなんですか?」

やっぱりそうか。

「梢ちゃんは、ひょっとして、波多野さんの会社で働いていました?」

「はい、働いていました。でも、今はもう会社がなくなったけど。」

「波多野さんと、連絡はとれますか?」

「いいえ、もう連絡も取れませんけど。どうして、そんな事を聞くんですか?」

「いやあ、僕も波多野さんにはお世話になっていたものだから。このところご無沙汰してたので、会いたいな、と思ったんです。」

NEXT LIFE  梢 2

 鈴木が私に、目配せをした。

「ちょっと、俺、トイレに行ってくるわ。」

「ああ、じゃあ僕もちょっと、いいですか。」

2人でトイレに立った。

「kさん、あのガネーシャが波多野からの貰いものってことは。まさか、梢ちゃんの本名が山名響子ってことか?」

「ええ、多分そういうことだと思います。本名を聞いてみましょうか?」

「いやあ、一応後でゆかりママに確認した方がいいんじゃないか?」

「そうですね、あんまり追及すると、怪しまれますね。」

「でも、そうすると、今梢ちゃんのお腹には畔倉香がいるわけだよな。」

「そうだと思います。」

「ということは、これからお腹が大きくなって、働けなくなるわけだよな。そして、その響子の面倒を見てくれる誰かが出てくるわけだよな。」

「ええ、その予定ですね。」

「誰なんだろう?この店の客なのだろうか?」

「どうなんだろう。でも、スナックの客がそこまでするでしょうか?」

「そうか、それもそうだな。全然別の知り合いなのかもな。それにしても、ここで山名響子に会うとは。どうなっているんだ。これって、何か歴史とか未来とかが変わっちゃうんじゃないのか?」

「ううん、でも鈴木さん、ここは確かに過去にそっくりだけど、別にタイムマシンで過去に戻ったわけじゃないですからね。別の星に来ているわけですすから。」

「新しい人生か?でも、何だかややこしいよな。過去を繰り返しているような、そうでもないような。輪廻とか、転生とかともちょっと違っているような、変な感じだよな。」

「そうですね、今までは、私としては波多野の行方不明の原因を知りたいという気持ちが強かったんです。つまり、私の気持ちとしては、波多野の私に対する誤解を解きたいと思ったんですよ。私が波多野を追い込んだわけじゃないのだと、波多野にも理解してもらうことで、自分の気持ちも落ち着くと。

 ところが、ここで山名響子に出会うというのはちょっと予想外で、どうしたものかと戸惑っています。」

「まあな、俺もそうなんだよ。安宅商事の件を何とかしたいと思っていたけど、結局山川があっさり行方不明になるし、被害者もそんなに騒がずに収まった。何かが違うんだよな。」

男2人の勝手な妄想はとどまるところを知らなかった。

2人そろって、カウンターに戻ると、「ちょっと長いわね。何かの作戦会議?で、結局置物の修理方法は見つかったの?」とゆかりママがせかした。

「ああ、それ僕に心当たりがあります。御徒町の方に石材工房があるので、よかったら梢ちゃん一緒に行って見ませんか?」

NEXT LIFE  梢 3

 渋谷で待ち合わせて2人で銀座線に乗って上野広小路で降りた。だが、実際に歩いてみると、40年前では街の様子も違っていたのだ。

 御徒町の宝飾街は、バブルへ向けて拡大の真っ最中だった。人々も若者が圧倒的に多いのだ。若者のエネルギーが街のエネルギーになっている。

 没落するアメリカと、再び昇る日本、その1つの象徴が宝飾品や美術品の販売の拡大と庶民への普及であり、この御徒町の賑わいだったと言える。

 40年後には、この人たちがそっくり年をとり、60代、70代が中心の街になってしまうわけだが。いくら新しい若者が街に来たところで、絶対数が違う。街全体が老化、縮小してしまうのも納得である。

 私自身かつてはアメ横で登山用のバックパックなどを買い求めたことがあった。それが、40年後にはやはり登山も高齢者の時代である。戦後の経済が、結局人口のボリュームの多い団塊の世代を中心に組み立てられている為、すべてのシステムが老化していく。40年前の上野・御徒町を歩いてみて、自分自身の老化をかえって意識せざるを得なかった。

 あの山名響子が尋ねたという石材工房を探したが見つからなかった。しかし、石材工房自体はいくつもあり、石の修理も簡単に引き受けてくれた。

 修理を待っている間に、近くの喫茶店で待つことにした。

「梢ちゃんは波多野さんの会社で働いていたと言ってたけど、同僚で山名響子さんという人は知っていますか?」

「山名響子ですか?響子という人は、知りません。」

「あ、そうなんだ。あの、梢ちゃんはいつ頃まで波多野さんの会社で働いていたの?」

「私はただのピンチヒッターだったので、1年位前に2か月だけ働いたんです。」

「ピンチヒッターって、どういう意味?」

「社員さんが急に辞めちゃって、次の人が決まるまでの間ということで頼まれたんです。」

「へえ、頼まれたっていうことは、じゃあ波多野さんとは元々何かの知り合いだったの?」


「うーん、あの、本当のことを言うと、波多野は私の父なんです。」

NEXT LIFE  梢 4

 梢ちゃんが波多野の娘!?
 波多野に妻と子供がいることは分かっていたが、その人と会うことになる、などとは全く考えていなかった。

「ええっ、そうだったんだ。波多野さんの娘さんだったとは、意外でした。でも、それじゃあ、お父さんとは連絡取ってないの?」

「ええ、まあ、ちょっと事情があって、今は連絡は取っていないんです。」

 そう言われると、これ以上は聞き辛い。まして、原因は恐らく借金か、或いは山名響子との浮気なのかも知れない。そうでなかったとしても、私がクレジット会社のものだと知れば、やはりいい気はしないだろう。

「あの、月成さんはご存知ですか?」

「いいえ、どんな方ですか?」

「父の会社で働いていた方です。いつも出張で海外に行くことが多かったみたいですけど。お土産を買ってきてくれたりして優しい方なんです。」

「はあ、その方がどうかしたんですか?」

「その月成さんなら、父のことを知っているんじゃないかな、と思ったんです。」

「その人は、今連絡取れますか?」

「ううん、家で調べれば分かるかも知れません。今はちょっとわからなくて、すみません。kさんが、父のことをご存じだというので、月成さんのことも知っているのかと思いました。」

「ああ、すみません、良く覚えていなくて。」

「父とは、どんなお知り合いだったんですか?」

 しまった、逆に質問されてしまった。クレジット会社のものだとは言えない。

「以前、僕は宝石関係の仕事をしていたことがあったんです。その時に仕事で少しお世話になったんです。」

「そうなんですか、今は宝石のお仕事はされていないんですか。」

まずい、適当に答えたら、余計に深みにはまっていく。

「今は、宝石はあまり扱っていないんですけど、まあ骨董品とかをたまに扱ったりしています。恥ずかしいですけど、あまり大した仕事はしてないんです。」

「骨董品って、美術品とかも扱いますか?」

「ええ、まあ、たまにですけど、ありますね。」


「私も、美術品は好きなんです。特に絵画と、あのガネーシャみたいな石の置物などが好きなんです。」

「そうですか、いいですね、ああいうのを見ていると心が落ち着きますよね。」

「もし良かったら、今度一緒に美術館に付き合ってくれませんか?その時には月成さんの連絡先も分かっているかも知れません。」


「ええ、もちろんいいですよ。」

 適当な嘘をついたのが、かえってまずいことになっているのか?

 このまま嘘をつき続けるのは、苦しい。かといって、クレジット会社のものだと白状するのも辛い。それを言えば、きっと父を追い込んだ人間だと恨まれるだろう。うーん、参った。当面は、噓をつくしかないか。

NEXT LIFE  梢 5

 鈴木と、渋谷のガード下にある果林という喫茶店で待ち合わせた。梢ちゃんが波多野の娘だという以上、ルナでは話せないと思ったからだ。御徒町でのいきさつを鈴木に話したが、鈴木は信じられないという顔をした。

「鈴木さん、梢ちゃんは何故、もう一度会おうとしているのだと思いますか?」

「kさん、これねkさんには申し訳ないけど、変な期待は持たない方がいいと思うよ。」

「変な期待って何ですか?」

「梢ちゃんは、kさんを気に入って会おうとしているんじゃないと思うよ。」

「やめてくださいよ、おかしないい方は。私だって、そうは思っていませんよ。だから、どんな目的なのかが不思議なんですよ。」

「目的は、復讐かも知れないよね。」

「復讐って、何の復讐?」

「一つは、波多野を追い込んで行方不明にしたこと、もう一つは山名響子のせいで家庭が壊れた、その逆恨み。」

「それで、一体私にどうしようっていうんです?」

「その月成っていう男、そいつが何かをするんじゃないの?」

「月成が男だとは、まだわかりませんけどね。それに、何かをするって、何をするんです?ちょっと、あんまり突拍子もない想像はやめてくださいよ。」

「まあ、悪かったよ。そんなに怒らいないでよ。でもね、これは普通じゃないと思うよ。梢ちゃんと、会ったのは俺たちがルナに行った最初の日だよね。」

「そうでしたね。あの日、こちらの世界で初めて鈴木さんと会って、いろいろ話したんでしたね。」

「そう、そうしたらその日に初めて梢ちゃんという子が現れたんだよ。俺は、この世界のことはよくわからないけど、過去の世界によく似ていると思っていた。ところが、あの日から変わり始めた。過去と、違うことが起き始めているんだよ。」

「何が言いたいんですか?」

「つまり、俺とkさんだけが、前の世界から来ていたはずなんだけど、あの梢ちゃんも、こことは違う世界から来たんじゃないかってことだよ。そして、俺達に関わってきている、ということは俺達と同じように何かの目的をもってここにきているんじゃないかって、思うんだよ。」

「そうか、そう言えば香さんが誰かに襲われたから、それを守るために私は、ここに来たんでしたね。ということは、その襲った側の人間も、ここにきている可能性がある、ということですか?」

「そうだよ、よく考えれば、梢ちゃんが本当に波多野の娘なのか。月成という人間が本当に波多野の会社の従業員だったのか?まだ確認できていないよね。」

「彼らが、偽物だってことですか?」

「その可能性もあるんだよ。」

NEXT LIFE  梢 6

 梢ちゃんが偽物だとしても、そもそも確かめるすべがない。月成にしても、そう言えば波多野の会社で電話に出たためしがない。月成などという名前に記憶はないが、だからと言って、でたらめだとも言い切れない。

 彼らが、偽物だったとして、どういう目的を持っているのか。

 香のそばにいて、守るのが私の役割だとしたら、襲撃事件の起きる直前から始まるのが自然だ。

 なのに、香が生まれる前からスタートしている。ということは、やはり今の時点で危険があるということなのだろう。

 今は、山名響子を守ることが即ち、香りを守ることになるのだな。

 香が襲われたのは、何か教団内部の争いと言っていたようだったな。
そうだ『天の船』だ、山本一郎が、そう言っていた。その組織の日本の代表だと言っていた。私が山本に会ったのは1978年ごろが最後だ。今から2年前か。
『エクス』は、まだあるのだろうか。

「鈴木さん、エクスという喫茶店があるんですけど。今度付き合ってもらえませんか。」

「いいけど、どこにあるの?」

「東町です。六本木通りを少し広尾の方に行ったあたりです。そこで昔、山本一郎に会ったんです。」

「ああ、エクスか。確か石井刑事が話していたやつだな。そこは、確か左翼革命主義者のたまり場だったという。でもどうして、急に。」

「少し、思い出してきました。あそこで、山本一郎と会ったんですけど、紹介してくれたのは『日本労農人民党』の人でした。ゆかりママの弟さんが入信したという『神州光輪会』の花澤も、初めは『日本労農人民党』に関わっていたんですよね。」

「そうだったな。でも、随分前の話だけどな。関係があるとは思えないけど。」

「ええ、実際には時間が違っていますからね。花澤が『日本労農人民党』に関係したのは1950年代。山本一郎がエクスに出入りしていたのは1970年代。時間はずれています。

 でも、山本が『天の船』に関わったのは1970年代。花澤が『神州光輪会』を作ったのは1975年。それを考えれば時間が一致するかもしれません。」

「そうか、そうすると2人は何処かで接触していた可能性があるんだな。」

NEXT LIFE  梢 7

 週末の土曜日に、梢ちゃんと銀座のギャラリーパークで待ち合わせた。
学生を含めた若い画家たちの絵を集めて展示していた。水彩画、ボールペン画、日本画など様々だが、目を引かれたのはインドの細密画のような絵だった。

 幾重にも描かれた宝輪のような輪に、細かくデザインされた花弁と葉などが描き込まれその中心に装飾された生き物が描かれている。同じデザインで中心の生き物だけが異なるものが数種類ある。生き物は、象や狼、馬、鹿、魚などがあり、そしてガネーシャを描いたものもあった。

 別の画家の絵で、預言者と題された3枚の絵があった。右から白衣を着た老人と、その周りに集う人々の絵。次に、港と桟橋の絵があり、遠くに箱舟のような船が見える。最後の絵は、大勢の人々と動物、植物などの生き物を乗せた船が、海から宙へと飛び立つ様子が描かれていた。

 その3枚の絵とは別に、左隣に、MOONと名付けられた絵があった。暗黒の空を背景に輝く真白な月で、その月の輪郭にはピンク色の光が見えた。

 私は、最後の白く輝く月が気に入ったので、そこで暫く立ち止まっていると「こんにちは」と声をかけてくる男性がいた。振り返ると、「初めまして、月成です。」という。

 背が高く、少し細身だが目つきの鋭い男で、年齢は40代くらいに見えた。まさか、直接会うことになるとは思っていなかったので、少々驚いた。梢ちゃんは、わざと黙っていたのか、と疑う気持ちが強くなった。

 3人で、画廊を出て、近くの喫茶店に入った。地下へと階段を降りて、店のドアを開ける。真鍮の取っ手のついた古いが立派なドアだった。左手から出てきた男性の店員に案内され、奥へと行くと、またガラスのドアがあり、そこを開けて四方をガラス窓で囲まれた部屋の中へ入って、席に着いた。

 今度はウエイトレスがやってきて礼儀正しく注文を取り、程なくコーヒーが出てきた。全ては、よく訓練された人形たちによって手際よく運営されているようだった。

「波多野さんのことですよね。波多野さんは、連絡先も言わずに突然いなくなったんです。いなくなる前の日に、会社にはもう来るなと言われました。赤字で夜逃げするしかないんだと言ってましたよ。それ以来会っていません。勿論連絡先も分らない状態です。」

「山名響子さんは、ご存知ですか?」

「はい、1年位一緒に働いていましたから。」

「山名響子さんの連絡先は分かりますか?」

「はい、知ってますけど。でも、どういう御関係なのかお聞きしてもよろしいですか。」

 予想はしていたが、対面で聞かれると、一瞬どう答えたものか緊張してしまう。この男は、紳士的なふるまいではあるが、何者か分からない。

 「梢さんにもお話ししましたが、波多野さんには以前仕事でお世話になったのです。その際に山名響子さんともお話したことがありました。でも、波多野さんと連絡が取れないので、山名さんがご存知かなと思ったものですから。」

NEXT LIFE  梢 8

 私は、緊張をほぐそうとコーヒーカップに口をつけた。

月成が、何かを確かめるように私を凝視した。

動揺を悟られまいと、私も月成の目を見返した。

すると、頭の中で月成の声が響いた。

『君は誰だ? 山名響子を知っているという君は誰なのだ?』

心の中で答えた。『私はkだ。』

『本当の名前は何だ?』

『私の名前はk。ほかの名前は知らない。』

『この世界で、山名響子という名を知っている者はいない。山名響子の名前は伏せられていたからだ。アーリア商会での名前は高場凛だ。なのに、なぜ君は山名響子の名前を知っている?」

―――― 高場凛という名は聞いたことがない。

梢の声が聞こえた。

『やっぱり、この男が父を追い詰めたに違いない。この男が、やがて山名響子を助けることになるに違いない。そうなる前に始末するべきよ。』

『君は誰なのか?本当の名前を言わないのならば、このままこの世界から消えてもらうことになる。』

―――― いっそのこと、本当のことを話すか。しかしそれでは、結局波多野を追い詰めたことにされてしまう。


その時、突然誰かに肩をたたかれた。

「よう、kさんじゃないか。あぁ、梢ちゃんも一緒だね。どうしたの、こんなところで会うなんて、奇遇だね。」

新聞を片手に持って現れたのは、鈴木だった。多分、近くの席からこちらの様子を見ていたのだろう。

「あれ、こちらは?」

「ああ、この方は、梢ちゃんの知り合いで月成さんと言うんだ。」

「あなたが月成さん、お話は聞いてますよ。ところで、今も爆弾を作っているのですか。」

 月成の表情が険しくなった。

「爆弾とはどういうことですか?」

「月成兵輔、1970年代に幾つかの爆弾を使ったテロ事件に関わりましたよね。」

「突然おかしなことを言いますね、どなたですか、この方は。」

「私は、鈴木と言います。草ですよ。ただの国を思う草莽の一人。民衆の一人にすぎませんよ。」

そう言って、鈴木は名刺を差し出した。

「ジャーナリストですか?」

「ええ、一応ジャーナリストの端くれです。ですから、あなたのことも調べたんですよ。そうしたら、あの爆弾を作った方だった。勿論私は、草莽崛起の一つだと思って尊敬しているんですよ。」

「そうですか。何を仰っているのかはよくわかりませんが、私は用事がありますので、今日はこれで失礼します。」

月成は態度を一変させ、急に帰ると言い出した。

「いや、待ってください。まだ山名響子の連絡先を聞いていませんよね。それを聞かないわけにはいかないのです。」

鈴木の強い口調に月成は、不快そうに名刺を取り出した。

「これが、彼女の名刺です、どうぞ。これ以上のことは知りませんので。」

それだけ言うと、梢と一緒に席を立ってしまった。

NEXT LIFE  梢 9

 月成の置いていった名刺は、赤坂3丁目のクラブ睦の名刺だった。源氏名は凛。

「kさん、何か変な薬でも飲まされたのかい?苦しそうにしていたけど。」

「いや、コーヒーしか飲んでないのだけど、途中から何だか分からなくなって、ぐるぐる眩暈はするし、倒れるかと思ったよ。鈴木さんが来てくれなかったら危なかった。何か、頭の中で声が聞こえていたような気がするけど、ほとんど覚えていないんだ。」

「でも、あの2人はどんな関係なんだ?月成というのは相当やばい人物なんだよ。公安も探しているはずだ。そんなのと、梢ちゃんが親しいとはね。」

「波多野の会社で働いていたというのは、嘘なのだろうか?」

「まあ、出入りはしていたのかも知れないけど。さっきも話したように、あいつは爆弾テロ事件の犯人なんだ。爆弾だけではない、自動小銃などの武器弾薬の調達が専門だった。それが出入りしていたということは、アーリア商会を使って武器弾薬の密輸をしていたのかも知れない。」

「密輸か。でも、もしそうだとすれば、波多野もテロに関係していたという事か。」

「うむ、波多野の思想関係は分からないけど。まあ、思想抜きに利益のためだとも考えられるけどね。」

改めて、テーブルの上に置かれた名刺を見てみる。
「この名刺が、山名響子の名刺なのかな。源氏名が凛か。」

「そうだな、この店に行って確かめる必要がある。」

「鈴木さん、また付き合ってもらえるかな。どう話せば良いのか、自信がないよ。また変な奴が現れるかもしれないし。」

「大丈夫、俺の役割は、kさんを監視することだから。頼まれなくても、見ているよ。」

 鈴木の言葉は、当面の不安を和らげてくれるのだが、同時に、私と鈴木の関係を再確認させるものだった。

NEXT LIFE  この世界の秩序 1

 そうだった、鈴木は石井刑事に頼まれてここにきているのだった。石井刑事は公安の外事課、国際テロを扱う部署だった。今、この世界に石井刑事はいないのだが、月成と波多野の関係を考えれば、ここで国際的なテロが起きていたのかもしれない。

 武器を蜜輸入するという事は、密輸出する相手がいたということだ。それが誰だったのかを石井刑事もまた、時間をさかのぼって追っているのだろうか?

 石井刑事は確かに、波多野が偽名を使って密貿易をしていたことを気にしていたのだ。

 『波多野さんは、大陸と密貿易をしていました。元々、彼の父親が大陸の出身だったことも影響していたのかも知れません。
それらの事業も、彼の話によれば清原さんの為にだめになったわけですが。

 彼は、その仕事を山中響子さんに引き継いだようです。山名響子さんの、足取りも詳しくは分かっていませんが、恐らく娘の香さんも引き継いだのだと思われます。』

 石井刑事は波多野の仕事を問題にしているようだった。しかし、密貿易をしたと言っても40年も前の話だろう。それに娘や孫が跡を継ぐというのも、なんだか変な話だ。それを、今問題にしなければいけないのか。

あの時は、そう思って真剣にはその話を聞かなかった。

『ハッキリ言えば、彼らは諜報活動を行っていたのです。もちろん利用されていたにすぎないのだとは思いますが。』

石井刑事はそう断言したのだが、それでもその時は、私にはどうでもよい話に思えた。


 畔倉香が襲われたのは、この時代の国際テロに関係しているのだろうか。
因果関係という点から見れば、この時代にさかのぼって詳細に事実を見れば、何故事件が起こったのかは分かるのかも知れない。

 だが、石井刑事の目的が事件の解決だとすれば、私が山本一郎から依頼されたこととは矛盾する。私が依頼されたことは、事件を防ぐことではないのか。事件を未然に防止するのが一番ではないだろうか。

 しかし、公安の立場では、それは違う。事件の背後関係を確認し、主犯を逮捕し、今後の発生を防止する。その為には、一度事件が起きなければならない。

 そうか、一度目の事件は既に起きたのだ。だから、今は事件の背後関係を確認しているのか。ということは、ここで起きていることは一種のシミュレーションのようなもので事件を再現しているだけなのかもしれない。

 だが、そうすると月成の行動は不自然になってしまう。鈴木が月成に会うなどということは、前の世界では無かったことだろう。月成は、梢と共に、私が誰かを知ろうとしていた。やはり、この世界では異分子なのか。

 いや異分子は、私の方だ。私こそが、この世界のウイルスなのだ。だから、月成は逆に私を排除しようとする。免疫行動をとっているのだろう。この世界の秩序を守ろうとしているのかも知れない。

 この世界でも、以前と同じようにすべての出来事が因果関係に従って起きている。私と鈴木は、その因果律を破壊しようとしているのかも知れない。

プロフィール

gasset

Author:gasset
FC2ブログへようこそ!
歴史的事実に改編を加えた妄想小説です。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
03 | 2020/04 | 05
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR