fc2ブログ

NEXT LIFE  変革の時 3

―――――― 室田哲男、波多野 どこかで聞いた名前なんだけど、思い出せない。何だったっけかなあ。

「田口刑事、どうでした東久留米は。何か、分かりましたか?」

「あぁ、石井刑事。いやあ、事務員が居たんですけど、社長には逢えませんでした。でもですね、その事務員の女が波多野と云うんですよ。どこかで聞いた名前なんですけど、思い出せなくて。」

「その事務員がどうかしたんですか?」

「いや、どうしたって分けじゃないんですけど、何か、以前に同じ様なことがあったような気がしまして。デジャヴっていうんですかね。」

「そうですか、それより、室田哲男ですけど、どうやら、別名を使っているようですよ。」

「ええっ、別名ですか?」

「会社の登記上は金慶国となっていました。」

「金慶国ですか?」

「そうですよ、それが室田という名前を使っているのは、何故か?そこも調べなくてはいけませんね。室田とはいつ会うんですか?」

「いや、まだ約束はできていないんですよ。名刺は置いてきましたから。近いうちにまた行ってきます。」

「何か、のんびりした感じですね。これひょっとすると、原発絡みになるかも知れませんから。他に持っていかれないように、お願いしますよ。」

「はい、わかりました。」

―――――― 全く、他に持ってかれたからどうだって云うんだよ。そんなに、大きなヤマなのか?小っちゃな会社だったけどな。あれで原発と関係しているとは、とても思えないがね。そんな、たいそうな知識もないだろうに。

それよりも、波多野に、室田に金慶国か。随分名前を変えているな。そういう意味じゃ普通の奴じゃないのかもな。スパイでもやっているのか? 
―――――― 

「田口刑事、鈴木さんあての電話が入ってますよ。室田さんと言う方からです。」

「ありがとうございます。折り返しにしてください。」

―――――― 早速かかって来たか。心当たりがあるって事か?

「室田さんですか、リベルテールの鈴木です。お忙しいところ、お電話いただきありがとうございます。取材の件で、ハイ・・・では、明日の午後1時にお伺いしますので宜しくお願いします。」

―――――― ルナで、kさんに聞いてみるか。――――――

「まあ、そんな具合で名前に聞き覚えがあるんだけど、どうしても思い出せないんだよね。」

「鈴木さん、あれから、10年もたっているし、前の世界での話だったから分からないでもないけど。波多野はアーリヤ商会の波多野で、それが最後に、香のカード入れを拾った時に使っていた名前が室田でしたよね。確か、石井刑事がそう言っていましたよね。」

「ええっ?そうだったかな?石井刑事が知っていたのか?」

「上野で会った時にそう話していましたよ。」

「そうかあ、あの時は俺は正直、面倒くさいなあ、なんて思って、ろくに聞いてなかったんだよね。」

「そうだったんですか?そんないい加減な。あの時の話のお陰で、今こんな不思議な目にあっているんですよ。」

「いやあ、そうだったな。そうか、上野でそんな話してたんだ。」

―――――― 感心している場合じゃないか。でも、そうすると、あの波多野が室田って事は、やっぱりあの事務員は波多野の奥さんじゃないか。

スポンサーサイト



NEXT LIFE  変革の時 4

 1990年から、鈴木は警視庁警備部情報課配属となったが、そこへ、今年から石井刑事が上司となって赴任してきた。

 年齢は10歳も年下だが、最初から階級が違う。納得しがたいものもあるが、頭の切れは、やはり向こうの方が上だ。不承不承ながら従うしかない。

「石井刑事、例の東久留米ですけど、室田は以前は、波多野と名乗っていました。やはりあの事務員は夫婦ですね。」

「何故、それを隠したのか?前にも何かやらかしていたんですか?」

「それは、分かりませんけど、借金取りから夜逃げしたことがありましたね。それで、隠しているんじゃないでしょうか。」

「それだけですか?・・・でも、まずは、今の事件からですね。」

「ええ、これから行ってきます。」

―――――― 室田の会社は、東方商事という名前で、主に日本と韓国の間での食品の輸入卸を手がけている。主な取引先は、府中の四谷食品だ。

 通常は、韓国から輸入した食品をその四谷食品に卸しているのだが、今回は、北の共和国向けに、禁じられた工作機械を輸出したという疑いがあった。

「室田さん、今回御社が北の共和国向けに工作機械を輸出した、という噂がありますが、それは事実ですか?」

「いいえ、とんでもない。そんな話は、全くの出鱈目ですよ。」

「事実は、どうだったのですか? 御社からの荷物が、敦賀港に停泊していた北の船に積み込まれたと聞きましたが。」

「それは、四谷食品に頼まれて、東北の海産物や、干し柿などの食品を運んだのです。確かに北の船ですが、経由地が韓国の蔚山なので、東京から送るのであれば、下関へ行くより、敦賀の方が安いのです。」

「では、今回だけではなく、今までも、北の船を使っていたのですか?」

「はい、今までも、今回と同じように四谷食品の荷物を韓国に敦賀から運んでいました。だから、どうして今回だけ、事件扱いされるのか、不思議なのです。」

「そうすると、問題は、その荷物が確かに食品だったのかどうかですね。中身は確認していますか?」

「それは、四谷食品から受け取っていますので、私の方では、輸出の手続きだけですから、中身自体は確認していません。今まで、税関で指摘されたこともありませんよ。もし、中身のことなら、四谷食品の方で聞いてください。」

「そうですか、四谷食品の担当の方はどなたですか?」

「許 春塾 という方です。あちらの課長さんですよ。」

「分かりました、ありがとうございました。」

―――――― 四谷食品か、でも今まで問題なく営業してきたのだろうから、何故今回だけ、こんな問題になっているのだ? 今までと、違う事情があるという事か。それは、何だ? ちょっと頭を使う事件だな。俺には向かないな、この部署は。

 ・・・そう言えば、石井刑事が、原発がらみの事件とか言ってたな。敦賀の原発か。ということは、敦賀で何か今までと違うことが起きた、という事か?

NEXT LIFE  変革の時 5

 室田の東方商事から、府中市の四谷食品へは、小金井街道を南へ下り藤八道路を西へ向かうと、左手に刑務所の高い塀と、鉄道の線路と大きな工場が見えてくる。その一角にあった。

「不正な輸出ですか? 誰がそんな噂を流しているんですか?よく調べてから来てくださいよ。税関からは何も言ってきませんよ。」

「ええ、まだ噂の段階で、正確な情報ではないのですよ。それで、こうやって調べているんです。」

「うちにとっては全く迷惑な話です。噂の出所を捕まえてください。名誉棄損で訴えますよ。あなたも、そんないい加減な記事を書いたら唯ではすみませんからね。」

「まあ、そう興奮しないでください。その船は金剛山号でよろしいんですか?」

「はい、そうです。兎に角よく調べてから出直してください。」

―――――― 随分と興奮しているな。逆に怪しく思えるが・・・。まあ、後は敦賀へ行ってみるか。

「石井刑事、そんなわけで、敦賀へ行ってきますよ。」

「敦賀へ行って、荷物を見てくるというわけでもないでしょう?というか、その荷物ですけど、税関では極秘にしているようです。行っても、空振りかも知れませんよ。」

「でも、そういうタレコミがあったんですよね。なのに、税関では内緒にしているんですか?」

「最初は、確かに荷物があったんですよ。そう言ってましたからね、ところが先ほど照会したら、税関では該当する案件がないというんです。」

「荷物が消えたんですか?」

「いやあ、『案件』が無い、と言ってました。」

「それは、どういう意味ですか?」

「恐らく、『工作機械の不正輸出に該当する告発』という事案がないという事でしょう。そういう事案がないので、そのような荷物があるかないかの照会そのものに応じられないということですよ。」

「ううん、何でそんな事になったんですか?」

「それも調べないと分かりません。まずは、船が今も敦賀にあるのか、どうかですね。そこから確認しないと。」

「分かりました、兎に角行ってきます。」

―――――― 何だか、ややこしいな。告発そのものが、存在しない、事になったわけか。そういう事にすれば、その荷物があるかどうか、調べる理由もないし、調べさせることもできないという事か。

 要するに、誰かが、これ以上関わるな、と言っているわけだな。
と云う事は、何かが確実にあるということだな。
面倒だな、こういう事件は、関わりたくないよ。やっぱり、この部署は向かないな。でも、敦賀に旅行に行くと思えば、それもいいか。

NEXT LIFE  変革の時 6

 神州光輪会の本部では、月成と宗務長の田倉との間で、議論が交わされていた。

「田倉さん、ソ連とヨーロッパの状況を見れば、今こそ北方領土を解決する時です。あの、ソ連抜きでの講和条約とその後の安保条約によって、北方領土は解決不能になりました。しかし、今ソ連は経済的危機を迎えています。一歩間違えれば革命が起きかねません。この機会を生かすべきです。」

「しかし、それには政府を動かさなければなりません。政府には、そんな人物はいませんよ。みな、アメリカの顔色を伺うばかりですから。」

「政府が動かなければならない状況を作ったらどうですか?
人物というものは、危機に会って初めて出てくるものです。日本も、バブルが崩壊して、ある意味では危機です。人物が出てくる機会ですよ。」

「具体的に何か策でもあるのですか?」

「今の日本が軍事的にどの様な危険にあるのかを、示したらどうです?
例えば、スパイが軍事機密を盗もうとしても、それを防止する、法律も、機関もないのだと、知らしめたらどうです?」

「それで、自主国防の動きにつながりますか?私にはそうは思えませんよ。むしろ、ますますアメリカ頼みになるのじゃないでしょうか?」

「やってみる価値はありますよ。例えば、原子爆弾を作るために必要なプルトニウムが、第三国に持ち出されたら、どうですか。もし、それでも、何も政府に変化がなければ、見切りをつけるべきかもしれませんが。」

「見切りをつけるとは、どういう意味ですか?」

「その時には、我々が、政界に進出する、或いは、政府を作るということです。」

「クーデターでも考えているのですか?」

「最悪はそれもあるでしょう。兎に角、1-2年の内に行わなければ、ソ連は崩壊してしまう可能性もあります。そうなると、交渉すら不可能です。」

「私は、反対です。万一、そのような企てが警察に知られることとなれば、それこそ、教団の危機になりますよ。」

―――――― 田倉は、やはり反対するのだな。であれば、俺一人でもやるしかない。アメリカやソ連と戦争をせずに、領土問題を解決するには、こんな機会は2度とないだろう。やったところで、失うものなどないのだから。

 敦賀には、「ふげん」がある。他の原発で出来たプルトニウムを原料とする発電所だ。そのプルトニウムが持ち出されれば、核爆弾の拡散につながる。日本で考えられる、最も危険な軍事技術の流出事件になるだろう。

NEXT LIFE  変革の時 7

 敦賀に着いて、ホテルに泊まる手続きを済ませて、街の様子を見る。居酒屋で食事を兼ねて、一杯やって居ると、隣の席で、妙な噂を聞いた。原発が一時停止したという。
その停止した時間に、何が起きたのか、一切明かされなかった、という。

――――――「俺は、その日、夜勤で居たんだが、緊急停止が作動したんだよ。ところが1時間ほどで、また解除された。そんな事は今までなかったから、これは何かの誤作動だと思うんだが、その事については一切発表されないんだ。勿論、緘口令も敷かれて、誰も何も話さない。」

「お前、そんな話してて大丈夫なのか?」

「まあ、ここだけの話だから、誰にも言うなよ。でも、あれは絶対何かあったんだと思うけどな。その後、別の奴の話だと原発の付近に、地元のナンバーとは違う車が止まっていたというんだ。観光でもない、夜中に来るか?」

「その車が怪しいっていうのか?」

「ああ、もしかしたら、北の共和国の人間じゃないかって噂だよ。」
――――――

 やっぱり何かあったのかも知れない。

「すみません、今の話詳しく聞かせてもらってもいいですか?」

「あんた誰だ?」

「こう云う者です。どうぞ、宜しく。東京で雑誌記者やってます。」

「いやあ、話すなって言われてるんだよ。」

「勿論、ただとは言いません。まあ、一杯どうぞ。協力費も出しますので。名前などの情報源は一切漏らしませんから安心してください。」

―――――― あの作業員の話だと、原発は緊急停止したのに、それを隠している。それは、会社の問題か? それとも政府の指示か? 北の共和国の関与があるのか?

―――――― 次の日、税関を尋ねたが、何の成果もなかった。雑誌記者では相手にされない。金剛山号はまだ停泊している。しかし、ここにも取材は拒否された。残るは、原発だが、当然、断られるだろう。とすると、例の地元ナンバーではない車か。それを、調べるには監視カメラの確認か。だが、それも地元の警察の協力が必要だ。仕様がない、石井刑事に相談するか。

それよりも、折角だから、観光と行くか。越前というと、断崖絶壁の岩場を思い浮かべるが、敦賀には気比の松原や、水島などの綺麗な砂浜海岸があるな。金ヶ崎城は、戦国時代の古戦場だという。織田信長と朝倉義景の戦いの跡だ。浅井長政の裏切りに会い、この金ヶ崎の戦いで織田軍は敗走する。

豊臣秀吉が天下統一にまい進し、徳川家康が秀吉の妹と結婚した天正13年(1586年)、1月18日及び1月16日に天正大地震が起こり、この敦賀も地震及び津波の被害を受けた。マグニチュードは8前後と推定されているが、文献記録の少なさや、痕跡の経年劣化などで失われたため確定はされていない。

ところが、電力会社は、津波があった事実を否定し、地震に対して日本有数の安全地帯だとしている。
どうして、歴史記録を否定してまでも、ここに固執するのか? それも謎だ。

NEXT LIFE  変革の時 8

 ホテルに戻って、風呂にでも入ろうと、大浴場に行った。露天風呂に浸かって、下界を眺めると、眼下に若狭湾が見える。静かで、綺麗な碧い海。だが、太平洋に比べて日本海は暗いなどとという人もいる。どうして、そういうイメージなのか、やはり冬のイメージが強いのか。俺には分からないが、こうしてみると、夕日に染まり葡萄色の海のようにも思える。

 この海を渡った先には、かつてシベリア航路と呼ばれ、ロシアまで続く鉄道があった。敦賀港は大陸への入り口でもあった。更に古くは、大陸からの帰化人も多くここに到来した。、新羅から、高句麗から、渤海から。

 第2次大戦後には、シベリアからの帰還者もここに来た。そして、朝鮮へ帰る人々もここを通った。漁船で来る人も多い、その中には当然スパイもいる。北の共和国へ日本人を拉致する者もいた。

 ここに、この場所に日本で最初の原子力発電所ができた、というのは歴史を見ると、偶然ではなく、大陸との関りがある、という事なのか。大陸からの攻撃を考えれば、ここは余りに無防備ではないか。近すぎるし、交流がありすぎる。大事な技術や軍事機密を「どうぞ、持って行ってください」と、言っているようなものだ。

 東亜連盟、という組織が戦前にあった。日中朝の東亜三国を中心に連盟を築いて西洋に対抗しようとする運動で、軍部、特に満州関係者には影響力があった。戦後になっても、満州からの繋がりは続いていたが、そのアジア主義者は、今も密かに活動しているのだろうか。左翼や右翼を越えて、アジアは一つと言いう理想を持っているのだろうか。

 風呂に入って、ぼんやりと、そんなことを考えていたら、湯煙の向こうに老人の姿があった。
いい眺めですね、と老人が言うので、そうですね、と答えた。老人は、シベリアから帰って来たと言う。
あの、海の向こうに故郷があるのですよ。いつか、帰りたいと思っているのですが、とうとう帰れないままです。

 ソ連兵に襲われた、という話は、ドラマなどでも見ますが、実際は、朝鮮人・朝鮮保安隊による強姦がひどかったのです。ドイツでは、200万の女性がレイプされたと言いますが、朝鮮での日本人の状況もそれと同じでした。ある九州の病院の記録によると、強姦により妊娠した引揚者のうち、半数以上が朝鮮人によるものだったそうです。私は、その人達を守れずに、シベリアへ連行されました。

 ところが、日本に帰ってからも、私は『シベリア帰り』という事で、白い目で見られたのですよ。
守るべき国とは一体何だったのでしょうね。

 ある詩人が、『身捨つるほどの祖国はありや』などと、唄っていましたが、私も苦しみました。祖国はあったのですよ、確かに。それを守る為に大勢の人が、戦い死んだのですよ。でもね、戦争が終わって帰ってみれば、ああ、確かに敗けたのだな、と分かりました。

 私の祖国は、敗戦とともに確かに滅んだのですよ。今あるのは、別の国です.私の国は海の向こうに行ってしまいました。浦島太郎ですよ。戻ってみれば、もう知った顔もなく、見知らぬ国になっていたのです。
今の私は、この国で異邦人となってしまいました。あなたはどうですか?

 俺には、良く分からなかった。確かに異邦人ではあるが、それは、俺が異邦人なのか、それともこの国が別の世界の国だからなのか。実際、ある日気が付いたのだ、別の世界にいるのだと。それは、前の世界にそっくりだが、何かが違っている。俺は、ここでは異邦人なのだと。

で、異邦人の俺は、この国で何をしようとしているのか? 生きる理想のありやなしや?

NEXT LIFE  変革の時 9

 東京に戻り、石井刑事に会うと、原発近くにいた不審な車の持ち主が分かった。山梨県上野原市在住で、甲州建設の従業員の手塚という男だった。

「甲州建設ですか? そんな会社の人間が何をしていたんですか?」

「聞き取りの結果では、甲州建設の仕事とは関係なく私用だったと言っているんだ。だけど、その甲州建設は、噂では、神州光輪会と関係があるらしい。」

「それは、どこからの情報ですか?」

「確かな話ではないけどね。神州光輪会の脱会者からの情報で、会の方針に逆らった者が、甲州建設の関係する、山林で懲罰労働を強制されたというんだ。

セミナーという名目で、合宿に連れていかれ、現地で建設労働を強制されたらしい。」

「今どき、強制労働ですか。」

「そうだ、その甲州建設を調べてみるか?」

「どうやって調べますか?」

「神州光輪会と関係があるかどうか、関係があるとすれば、登記簿上の役員に神州光輪会の関係者がいるだろう。その辺りから追ってみたらどうだろう。」

「分かりました、調べてみます。」

―――――― 甲州建設と神州光輪会か。それが、果たして、原発と関係があるのか? 

 法務局で、甲州建設の登記簿から役員を調べると、月成の名前があった。取締役として登記されていたのだ。代表取締役は遠藤宏となっていた。
 
 神州光輪会と関係があることは間違いないが、月成に何を聞いても、答えないだろう。現地へ行って、代表の遠藤と会ってみるか。

 甲州街道を西へ走り、高井戸から中央高速に乗った。途中、国立府中インターを走りすぎる。外の景色を見た時、ふとこの道は前にも来た事がある、と思った。あれは、もう10年も前だ、そうだ波多野だ。

 あいつが消えた時、途中まで甲州街道を追っていたことがあった。あの時は、波多野の乗った車が、国立インターで高速に乗ったので、そこで追跡をやめた。

 国立インターのそばで、kさんの車を見て停めた。kさんも、波多野を追っていたのだ。そして、あの時kさんに、ゆかりママの弟(佐久間良治)の行方不明や、それを探していた先輩の不可解な死の事などを話したのだった。

 波多野はあの時、もしかすると、甲州建設に連れていかれたのか? だとすると、今回のことはやはり全て繋がっているのか? ・・・うん?今何か、とても大事なことが見えたような気がするぞ。

 でも、何がどうゆう風につながるのか? 遠藤に聞いても埒が明かなければ、波多野に聞くか。それとも、石井刑事に相談した方がいいかな。自分でやると、取り逃がしそうだな。そうだな、まずは慎重にだ、先走って取り逃がさないようにしないと。

NEXT LIFE  変革の時 10

 甲州建設の事務所は、山の中腹にあった。谷川がそばを流れ、県道に面した広い砂利の敷地は、大型トラックの駐車場になっていて、事務所へは橋を渡らなければならない。

 プレハブの事務所を訪ねると、遠藤社長が誰かと電話している所だった。事務員の案内に従って、仕切りの向こう側のソファーに座って待っていた。

 壁には、立派な角を持った牡鹿の頭部の壁飾りが、かけられていた。写真もいくつか飾られており、星の夜や、梢を通して日光のこぼれる林など。遠藤は案外ロマンチストなのか、と思った。

「お待たせしました。遠藤です。えーと、取材でしたか?どんな件ですか?」

「いやあ、随分立派な牡鹿ですね。それに、星の夜の写真も随分と美しいですね。自然の風景などがお好きなのですか?」

「ああ、これですか。まあ、こんな山の中ですからね、動物や、木々、星々などしかなくってね。街に出ることもないので、自分で写真を撮ってみたんですよ。なかなか、うまい写真が取れなくて恥ずかしいですよ。」

「私も、夜の星は好きでして、つい先だっても、敦賀まで夜景を撮りに行ってきたんですよ。」

「敦賀ですか、どうでした?」

「夜の海は、良かったですよ。満天の星もきれいでしたしね。それと、原発周辺の夜景も妙に世紀末的で良かったんです。」

「原発ですか。世紀末的とは、どういう感じですか?」

「ええ、それが、古代から変わらぬ、日本海の夜の暗さの中に、突然現れる、超近代的な原子力発電所の姿が、どこか不気味な、核戦争の跡の景色を思わせたのですよ。」

「そうですか?」

「はい、それと、そこで偶然、御社の方をお見掛けしましてね。」

「うちの会社の者ですか?」

「はい、手塚さんと仰いましたかね。山梨の甲州建設から来られた方、とお聞きしまして。それで、ふと、昔、知り合いがこちらにお世話になったことがあったのを思い出したものですから。これも、何かの縁かなと思い、此方を取材してみようと思ったのです。」

「そうでしたか、で、取材と云うのは、どの様な事をお知りになりたいのですか?」

「あの時、原発で事故があったんですが、その事故と御社の関りです。」

「いやあ、原発の事故ですか、私は何も聞いていないので、分かりませんが。」

「そうですか、では、御社の社員の方がその場にいたのは偶然ですか?」

「さあ、私は細かい報告は受けていないので、何の為にそこに行ったのかは聞いていませんが。」

「分かりました、ではそれについては改めてお伺いする事にしましょう。それと、神州光輪会との関りについては如何ですか?」

その時、事務員の声がした。「社長、佐久間係長から電話です。」

「ああ、すみません、ちょっと失礼します。」

―――――― 質問が、急ぎすぎたかな。・・・佐久間?まさかな。佐久間良治のはずはないよな。

NEXT LIFE  変革の時 11

 遠藤社長が戻ってきた。

「お待たせしました。」

「お忙しいところ申し訳ないです。もう大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫です。何の話でしたかな?」

「神州光輪会との関係についてです。」

「ああ、それも私には分かりませんが、どういうことなのですか?」

「いえ、神州光輪会はご存知ですか?」

「ええ、名前はテレビなどで知っていますけど、それ以上は関係ないので知りません。」

「この会社に、その関係者の方がいるという事はありませんか?」

「私は、知りませんけどね。宗教の事は、話しませんからね。普通そうでしょう?」

「分かりました。最後に、もう一つ、波多野という者が、ここにいたはずですが、覚えていますか?」

「波多野? 申し訳ないのですが、その方も存じません。」

「金慶国という名前に聞き覚えは有りませんか?」

「いやあ、全く知らないのです。その方がどうかされましたか?」

「いえ、私の知り合いなのですが、ここに来ていたはずですけど、私の記憶違いだったのかも知れません。」

「こんな山奥にわざわざお越しいただいたのに、全く、お役に立てなくて、申し訳なかったですね。」


「いえ、きれいな写真を見せて頂いて、ありがとうございました。・・・ああ、それと先程の電話ですが、佐久間係長という方でしたか?」

「はい、そうですが、どうかしましたか?」

「いえ、ちょっと気になりまして。その方は、30代くらいの男性ですか?」

「はい、そうですが?」

―――――― まさかとは思うが、佐久良治だろうか。確認したいが、もし、本人だとしたら、どうする。ここで、突っ込んで、まずいことになるかも知れない。もし、ここに来ていることが、秘密にされているのだとしたら、今俺が、その名前を出しては、危険なのかもしれない。

でも、確認したい。ひょっとして、佐久間良治をここで見つけることになるのかも知れない。

「あの、その方の下の名前は、何と仰いますか?」

「うん?下の名前はどうだったかな。ちょっと覚えていませんが。お知合いですか?」

「いえ、ちょっと気になっただけです。失礼しました。では、今日はお忙しいところ有難うございました。」

―――――― 何も、聞き出せなかったが、強いて言えば、神州光輪会の事を隠している感じがするという事か。取締役が月成なのに、それで神州光輪会を知らないというのは、いくら何でも不自然だろう。この事を、隠したという事は、他も嘘をついている可能性が大きいという事だな。

 波多野に当たってみるか。それにしても、佐久間良治。そうだな、神州光輪会と関係があるのならば、ここにいるのかも知れない。

NEXT LIFE  変革の時 12

 甲州建設の遠藤社長から、神州光輪会本部の田倉に電話があった。

「田倉さんですか、こちらに鈴木というジャーナリストが来ました。何でも、敦賀の原発の事、それから随分前の事ですが、波多野がここにいたんじゃないか、など聞かれました。ええ、それに神州光輪会とも関係があるのじゃないか、と疑ってましたよ。ええ、それ以上は有りませんけど。月成に注意するように言っておいて下さい。」

――― 月成か、またあいつは勝手に動いているのか。これ以上は面倒見切れない。もしかすると、敦賀の原発事故に関わっているのか? どうしたものか、口で言っても聞くような奴じゃないし。

月成は、六本木のRinというスナックに、部下を集めていた。

「敦賀の原発事故が遭っても、政府はもみ消したようだ。実際にプルトニウムが盗み出されたのにも関わらず、それ以上調査もせずに、事件を無かったものとして終わらせるつもりだ。」

「そのプルトニウムは結局どうなったのですか?」

「税関で回収されたよ。元々、回収されるように仕向けたものだからな。だが、これで、今の政府には国家や、国民をまともに守るつもりがない事が分かった。

1988年に、国会で初めて北の共和国による日本人の若者の拉致事件が取り上げられたが、にも拘らず政府、国会、マスコミの3者がその後無視を決め込んでいる。国としては、もう崩壊しているのだ。

政府も、国会も、マスコミも皆、経済だけが頭にあり、国土が奪われても、領海が侵入されても、国民が拉致されても、動こうとしない。それどころか、隠そうとしているのだ。」

「我々は、何をすべきなのですか?」

「国の形を取り戻すしかない。」

「どうやってですか?」

「まずは、選挙に立候補する。それは、国民に向けて、現在の国家の危機を知らしめるためだ。その上で、我々の思いに賛同する味方を増やしていく。」

「それは、神州光輪会の本部の方針とは別に動くという事ですか?」

「宗教団体が直接政治運動に関わることは出来ない。その為に、別の団体を作るしかないだろう。」

「その活動の為の、資金は何か当てがあるのですか?」

「心配するな、その為の資金作りも急いでいる。それよりも、これが新しい団体の組織図だ。これに従って、活動してもらいたい。協力してくれるか?」

「はい、勿論です。我々は、その日の為に今まで訓練を積んできましたから。」

「よし、まずは選挙運動からだが、目的はあくまでも次の蹶起の為の仲間を増やすことだ、それを忘れないように。」

プロフィール

gasset

Author:gasset
FC2ブログへようこそ!
歴史的事実に改編を加えた妄想小説です。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
05 | 2020/06 | 07
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR