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NEXT LIFE  変革の時 10

 甲州建設の事務所は、山の中腹にあった。谷川がそばを流れ、県道に面した広い砂利の敷地は、大型トラックの駐車場になっていて、事務所へは橋を渡らなければならない。

 プレハブの事務所を訪ねると、遠藤社長が誰かと電話している所だった。事務員の案内に従って、仕切りの向こう側のソファーに座って待っていた。

 壁には、立派な角を持った牡鹿の頭部の壁飾りが、かけられていた。写真もいくつか飾られており、星の夜や、梢を通して日光のこぼれる林など。遠藤は案外ロマンチストなのか、と思った。

「お待たせしました。遠藤です。えーと、取材でしたか?どんな件ですか?」

「いやあ、随分立派な牡鹿ですね。それに、星の夜の写真も随分と美しいですね。自然の風景などがお好きなのですか?」

「ああ、これですか。まあ、こんな山の中ですからね、動物や、木々、星々などしかなくってね。街に出ることもないので、自分で写真を撮ってみたんですよ。なかなか、うまい写真が取れなくて恥ずかしいですよ。」

「私も、夜の星は好きでして、つい先だっても、敦賀まで夜景を撮りに行ってきたんですよ。」

「敦賀ですか、どうでした?」

「夜の海は、良かったですよ。満天の星もきれいでしたしね。それと、原発周辺の夜景も妙に世紀末的で良かったんです。」

「原発ですか。世紀末的とは、どういう感じですか?」

「ええ、それが、古代から変わらぬ、日本海の夜の暗さの中に、突然現れる、超近代的な原子力発電所の姿が、どこか不気味な、核戦争の跡の景色を思わせたのですよ。」

「そうですか?」

「はい、それと、そこで偶然、御社の方をお見掛けしましてね。」

「うちの会社の者ですか?」

「はい、手塚さんと仰いましたかね。山梨の甲州建設から来られた方、とお聞きしまして。それで、ふと、昔、知り合いがこちらにお世話になったことがあったのを思い出したものですから。これも、何かの縁かなと思い、此方を取材してみようと思ったのです。」

「そうでしたか、で、取材と云うのは、どの様な事をお知りになりたいのですか?」

「あの時、原発で事故があったんですが、その事故と御社の関りです。」

「いやあ、原発の事故ですか、私は何も聞いていないので、分かりませんが。」

「そうですか、では、御社の社員の方がその場にいたのは偶然ですか?」

「さあ、私は細かい報告は受けていないので、何の為にそこに行ったのかは聞いていませんが。」

「分かりました、ではそれについては改めてお伺いする事にしましょう。それと、神州光輪会との関りについては如何ですか?」

その時、事務員の声がした。「社長、佐久間係長から電話です。」

「ああ、すみません、ちょっと失礼します。」

―――――― 質問が、急ぎすぎたかな。・・・佐久間?まさかな。佐久間良治のはずはないよな。

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歴史的事実に改編を加えた妄想小説です。

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