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月の光 28

 余りに、繁殖した植物を、何度か処分しようとも考えたのだが、切っても切っても増え続け、遂には全ての内壁を埋め尽くしてしまった。だが、その姿は、とても美しいのだ。色とりどりの花が咲き乱れ、蔦や枝葉は、緑の宝石のように瑞々しく輝いていた。

 「吾妻さん、この植物達は、何と美しいのでしょう。まるで、ここは楽園になったみたいです。」

 早乙女千春は、初めのうち、この植物の成長を、その美しさをとても喜んでいたように見えた。

 しかし、更なる異変が起きた。ある日一つの花が、備え付けてあった食堂車の棚の中に侵入し、そこで実を結んだ。そしてその実から硝子のコップが生まれたのだ。それを皮切りに、食堂車の花々は、様々な道具、スプーンやフォークやカップと言ったものに姿を変えていった。

 食堂車の植物の花から生まれた実は、キッチンやレンジ、オーブンなどとなり、寝台車では、ベッドのカバーやシーツに変化し、また樹木たちは、バスルームや、トイレと言った新たな物を生み出していった。様々な装置や座席となって列車ハウスの内部を完全に覆いつくし、一つの新しい世界を生み出したのだ。

 それは、もはや植物でないことは明らかだった。むしろ、自ら成長し、分裂し生成する機械だった。出来上がったものは、一見すると、豪華な列車のようでもあり、その完璧な構造からは核シェルターのようでもあった。

 ここに至って、吾妻もようやく事態を理解し始めた。少なくとも、バビロン国立大学には秘密にしなければならないと思ったのだ。そうでなければ、この研究は中止され、管理は国防当局に移される可能性が考えられた。これは、吾妻には、5万年以上前の古代文明が蘇ってきている、そう思えたのだ。

 吾妻にとっては、まだこの事態は、研究を止めるほどではなかった。問題は、早乙女千春だった。彼女の驚きは一通りではなかった。

 早乙女千春は、大学のゼミで乾の後輩だった。その能力を乾に認められ、飛鳥研究所から応援の依頼があった時に、乾は早乙女を推薦したのだ。

 千春にとっては、バビロンでの研究は、乾なしには考えられないことだった。ところが、その乾が先に帰国してしまい、一人残された千春には、ただでさえ今後のバビロンでの研究に不安があった。そこに、このような事態が起ったのだ。

 「吾妻さん、この植物たちは、とても私には理解できません。すぐに飛鳥研究所に報告してください。できれば私は、この研究は中止した方がよいのではと思っています。」

 初めはその美しさを褒め称えていた千春だったが、今では不安のあまり、研究の中止を吾妻に訴えるようになった。

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