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月の光 40

 「それでは、君は古代バビロンの文明を築いたものは、エ・モナで、そのエ・モナを作った別の文明人はどこへ行ったと考えているのかね。」高岳所長は、吾妻の話を聞きながら、怪訝そうに眉をしかめた。

 「神々が争って、5万年前に古代バビロンは滅びたのでしょう。その争った神々と言うのが空の上にいたのだろうと思います。今もまだ、どこかの空の上にいるのかも知れないと思っています。

 そして、箱舟はエ・モナが作ったものでしょう。だからあの楔形文書のタブレットは、彼らの子孫に向けたものではないのかも知れません。彼らとは違う、文明を持つ種族が解読するのを待っていたのだと思います。」

 「そうすると、君の考えでは、あれは地球人類のもではない、と言うことか。」

 「はい、そう思っています。あれが宇宙船だとしても、古代の人類ではないと思います。むしろ、彼らの呼ぶ、巨人族が地球人類だったのではないかと、考えています。」

 吾妻は、自説を淡々と述べたのだが、それは高岳には納得しがたいものだった。

 「しかし、いくら何でも、それは荒唐無稽すぎる。考えてもみたまえ、5万年前に文明があった、と言うだけでも、学界では捏造だと言われた。勿論、私は君を信じているからこそ、こうやって研究を続けさせているのだ。
 
 それでも、その結果が宇宙人の文明だった、と言うのでは、誰も納得しないだろう。どうやってそれを証明するのだ?証拠は、タブレットの解読だけだろう。文書自体が信用されていないのだよ。」

 高岳はもはや、不快感をあらわにした。25年間の研究の成果が、台無しになる、と思えたのだ。

 それでも、吾妻は自説を譲らず、更に最近の事件まで結び付けた。

 「このところの事件ですが、列車ハウスの近くで蜂が雲の中から出てきた、と聞きました。それこそ、空の上に彼らがいるという証拠ではないでしょうか。彼らが、攻撃を仕掛けてきた可能性があると考えます。」

 熱を帯びたように、自説を主張する吾妻を見て、高岳はすでにあきれたような表情になり、『吾妻は、一体何を言っているのだ。異国の地で25年もタブレットの解読を続けたのが、やはり長すぎたのか。』と、研究を続けさせたことを内心では後悔した。

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月の光 41

「その列車ハウスなのだが、警察が調べているのだ、君は一度帰ったらどうなのだ。清人君一人残して心配だろう。」と、高岳は意を決して話題を変えた。

 「いえ、清人はもう18歳になりますから、一人で大丈夫です。それに私が列車ハウスに戻ったとなれば、それこそ警察が調べに来るでしょう。中を見せたくはないのです。」

 吾妻は、列車ハウスの中に、外部の人間を入れてはならないと、思っていた。そうすれば、そこにある植物たちの秘密が知られる、その事は、飛鳥研究所にも秘密にしていたのである。

 高岳は、古代の文明に宇宙航空科学の知識があると考えていた、だから宇宙船があることも予想していたが、しかしそれはあくまで地球人類の文明だというのが前提である。もしそれが、地球外生命の文明だとすれば、全く話が違ってくる。

 それがどんな生命で、どんな能力を持ち、どのような生存形態なのか、全ては予測不可能なのだ。人類にとって有害なものかもしれない、人類が危険にさらされるのかも知れない。

 その様な可能性まで考慮しなければならない。それは、通常の考古学では扱うことのできない種類の問題だ。
 
 「いずれにせよ、吾妻君、君は暫く休んだ方が良いと思う。25年は長すぎたのかも知れないな。この機会に千春さんも、日本に帰ってきた方が良いだろう。」

 高岳は、そう言って、吾妻の研究を打ち切ることを考え始めた。

 「そこまで仰るのであれば、私も考えてみます。千春とも相談して、近いうちに御返事いたします。」

 吾妻は、高岳がこの研究から手を引こうとしている、少なくとも、自分を研究から外したいのだろう、と感じた。確かに、事件が大げさになれば、この研究が非難されることはあっても、信頼されることはないのだろう。それは吾妻にもわかる。

 しかし、それでも吾妻には、この騒ぎが、タブレットに書かれていることと、関係があるのだ、と確信していた。そして、その事は確かに警告したのだ、と思い、自分の役割は果たしたのだ、と考えた。

 吾妻にとっては、雲の事も、蜂の事も、どうでもよい。それよりも、列車ハウスの植物を守ることが大事であり、タブレットを最後まで解読しきることを優先しようと思った。

 「最後にもう一度申し上げますが、あの雲から出てきたという蜂の騒ぎですが、あれは、人類に対する警告だ、と私は思っています。かつて5万年前に滅びた古代バビロンの二の舞いにならぬよう、注意すべきだと思っています。」

 それだけ言うと、吾妻は飛鳥研究所を後にした。最後がこんな形になるとは、予想外だったが、しかしあの植物を秘密にした時から、いつかこんな日が来るのでは、と心配しなかった分けではなかった。
 
 研究所の窓から、夕日が見え、西の空がオレンジ色に染まる。これが最後なのだと思うと、初めてここに来た日のことや、バビロンで初めて、タブレットを発掘した日のこと等が思い出された。

『25年は、やはり長かったのだな。』と吾妻も、一人でつぶやいた。

月の光 42

 城外開拓区警察署では、斎藤が大和署長に呼ばれて列車ハウス周辺について報告していた。

 「また、蜂が出没したそうだな。それについて詳しい報告が上がってこないのは、どうしてなのだ。」
署長は、静かに、しかし不機嫌そうな声で尋ねた。

 「はい、遅くなって申し訳ございません。ですが、あれはただの蜂でした。自分らが手で追い払うと、すぐいなくなってしまいましたので、改めて報告するほどではないと判断しました。」

 斎藤は、さも何事もなかったかのように言い訳をした。

 「ただの蜂?しかし、科学捜査班の橋本からは、雲が出ていたと、言ってきているのだ。それはどうなのだ。」署長の目が、斎藤を睨んだ。

 「雲が出ていたのかも知れませんが、だったとしても蜂はすぐいなくなりましたので、問題はないかと思います。」

 斎藤は、顔色を変えずに説明した。斎藤の予想では、あの植物の映像は、抹消されているはずだった。以前に列車ハウスの映像が抹消された様に、今回も、マザーが抹消すると思ったのである。

 決定的な映像がなければ、それ以上は追及されないはず、そう考えた為、ここはあくまでしらを切り通そうと考えていた。

 「では、その蜂のサンプルは持っているのか?まさか何も持ってないと言うことはないだろうな。科学捜査班に唯の蜂だと主張するためには、その証拠が必要だ。それ位は、わかっているだろう。」

 大和署長は、科学捜査班とのやり取りにうんざりしていた。蜂が、ただの蜂でも、或は地球外生命でもそれはどちらでもよい。これ以上こんなくだらないやり取りを、やめたいと思っていたのである。

 「あ、それはうっかりしていました。大変申し訳ございません。何だか、余りに簡単にいなくなったものですから、これは例の蜂ではないと、自己判断してしまいました。この次には、証拠のサンプルを確保してきます。」

 斎藤は、そこまでは考えていなかった。取り合えず、この場は謝罪することで終わらせようと思った。

 このやり取りを、終わらせたい、と言う点では、署長も斎藤も一致していた。問題は、どうやって終わりにするかである。

月の光 43

 科学捜査班が絡んでいなければ、この騒ぎはとうに終わっていることである。もう列車ハウスの周辺は封鎖されているので、マスコミも、外部のデモ隊も近寄らない。そうすれば、騒ぎも起きないはずである。

 しかし、列車ハウスを移動させることは、斎藤には不可能な事だと分かっている事なのだが、大和署長はそれが可能だと思っている。署長に列車ハウスの真実を知らせずに、この問題を終わらせるにはどうすべきか、それが斎藤の悩みだった。

 列車ハウスの中がどうなっているのか、それを知らせることは、まず第一に清人を危険にさらすことだ、と斎藤には思えた。

 『やっと清人は、心を開きかけたのだ。清人の心の中までは、もちろん俺には分からない。だが、長年たった一人で外部の誰とも接することなく、生きてきたのであれば、それをいきなり環境を変えて、社会に放り出すことはできない。

 心が傷つくに決まっている。その位のことは俺にも分かる。だから今は、ゆっくり時間をかけることが必要だ。信頼と言うものを築くことが、大事なのだ』と斎藤は考えた。

 だが、それは大和署長にとっては、ほとんど問題にならないことだった。

『18歳にもなれば、一人前だ。多少環境が変わったくらいで、問題にはならない。むしろ、新しい土地で新しい生活が始まるというのは、楽しみでさえある。』何も事情を知らずに、署長はそう考えていた。

 大和署長は、別に列車ハウスを移動させなくても、それが解決するのであれば、それでも良い、と考えている。問題は、科学捜査班をどう黙らせるかだ。

 もし、斎藤が言うように、それがただの蜂だったとしても、その証拠がなければならない。

 「列車ハウスを移動するか、もしくは、ただの蜂で何の問題もないのだと、証明するか、どちらかだ。次で、この件を解決するように、必ず証拠を持ってくるのだ。分かったな。」

 斎藤は「承知しました。次には必ず、証拠を確保してきます。」そう約束して、署長室を出た。だが、何の考えも今のところは浮かばなかった。

 『まったく、面倒なことに関わったな、どうするか。中西に相談しても全く頼りにはならないしな。こんな事件を解決する方が無理だ。証拠を捏造すれば簡単だが、それが通るほど、世の中甘くはないだろうしな。

 考えてみても、証拠を捏造するほどの重大な事件とも思えず、かといって、何もしなければ、事態は複雑になる予感がする。科学捜査班が、直接捜査する、何てことにならなければ良いが。』
 
 定年を間近にして、斎藤の悩みは深まるばかりだった。

月の光 44

 吾妻春清は、バビロンに帰る前に一度列車ハウスを確かめてみようと思った。当初はそんな予定ではなかったのだが、飛鳥研究所での高岳所長との話し合いの後で、考えを変えたのである。

 研究がもうできないとなれば、千春にも日本で何が起きているのかを説明しなければならない。その為には、自分の目で列車ハウスと、城外開拓区の状況を確認する必要があった。

 葦原湿原を見るのは、随分久しぶりだった。野馬除け土手に囲われた広い湿原に、風が吹き渡る様子は心地よい。

 この湿原の真ん中に立って、空を見上げ、周囲の葦原以外何もない空間を見ると、全ての悩みが遠くに消えて、自分が大きくなって、空と一つになったような開放感がある。

 広い空を見上げながら、春清は、清人が生まれてから、ここに来るまでの事を思い出した。

 清人は、春清と千春の子供として、バビロン市で生まれ、4歳になるまではバビロンで共に生活していた。だが、問題があった。このまま、清人がバビロンで成長すれば、やがては列車ハウスにも、友人たちを招待することになるかもしれない。子供は、特に男の子は、秘密基地を探検するのが大好きだからだ。

 列車ハウスの内部の植物の事は、バビロン国立大学には秘密にしてあった。

 そうして、吾妻清人だけが列車ハウスと共に、日本に送られることになったのだが、日本でも、保育所の問題が起きてしまった。その為、最終的に選ばれたのが、この城外開拓区での入植地だった。

 ここで、清人は列車ハウスの中だけで、マザーに守られながら成長することになったのだ。

 列車ハウスの前に新しく門ができていた。そして周囲には電柵が張り巡らされていた。門から、約10mの距離を置いて、黒に近い濃い茶色の列車ハウスがあり、周囲には木が植えられて、木陰の中の休憩所のようにも見える。

 だが、春清の目には初めて見る、その門がまるで、バビロンのように思えた。『バーブ・イル』神の門が、その都市の名前であった。

 すると、バビロン市での研究を終えて、ここに帰ってくることが、何かの啓示のように思えた。ここが新しい『バーブ・イル』なのではないか、と思えたのである。

 そう考えると、急に列車ハウスの黒ずんだ姿が、重厚な色合いに見えてくるから不思議だ。『そう、ここに雲が現れ、ホタルや蜂が現れた、と言うこともすべて、これからの研究はここで行えという、啓示なのだ』

 そうして、希望が湧いてきて、やがてその思いは、強烈な確信へと変わった。少し前の感傷的な思いは、完全に消え失せ、足取りも軽やかに、しかし、しっかりと大地を踏みしめ、列車ハウスへと歩いた。
 

月の光 45

 門から、列車ハウスへと歩く春清の足元に、草が現れ、緑の絨毯が敷かれたようになる。絨毯の両脇には、膝くらいまでの高さの赤い花が咲き、それが列車ハウスの入り口まで続く。

 春清は、まるで戦いに勝利して凱旋する王のように高揚した気分になっていた。

 列車ハウスの入り口が開き、一歩足を踏み入れると、そこには見慣れない暖簾があった。レストハウスと書かれている。『何だ、これは。清人の仕業か?』怪訝そうに自然と眉がゆがんだ。

 暖簾をくぐると、メイド姿のモナが「お帰りなさいませ。ご主人様。」と大きな声で迎える。暫く、春清は声が出なかった。

 『この、女は何者だ。これも清人が招き入れたのか。いや、清人がそんなことをするはずはない。とすると、一体誰だ。もしや、清人がいなくなったのか。

 この女は一人なのか?それとも、他にもこの女の仲間がいて、清人はその者たちに追い出されたのか?
それとも、この者たちにこの列車ハウスが占拠されたのか。清人はどうしているのか。

 そうだ、マザーはどうしたのだ、植物が迎えたということは、マザーがいるはずだ。なのに、これは一体何が起きたのだ?』

 様々な疑念が一瞬の間に湧きおこり、「誰なのだ。君は。」そう言うのが、やっとだった。

 「私は、モナと申します。ここで、清人坊ちゃまのお世話をさせて頂いています。」モナはニコニコとしながら明るく答えた。

 「清人の世話をしている?清人はいるのか?清人をここに呼びなさい。」春清がそう言って、清人を呼んだ。

 「清人坊ちゃまは、只今は調子がよくないと仰って、ベットでお休みされています。」モナは申し訳なさそうに小さな声で答えた。

 「いいから、清人を起こしてきなさい。」春清は、もう先ほどの高揚した気分は消え去り、事態が把握できないため不機嫌になった。

 「マザー、一体どういうことなのか、説明してくれ。」続けて、春清はマザーに問いかけた。

 マザーが迎えないことに春清は不審を抱いた。ここは、自分の城のはずだ。ここを作ったのは、自分で、マザーはそれを承知しているはずだった。

月の光 46

 バビロンでこの列車ハウスを作って以来、植物たちは、春清の気持ちのままに動いてきたはずだった。マザーはいつも春清の意志を理解し、その通りのことを実現してきた。そのように、春清はこの列車ハウスを理解していた。

 春清にとっては、この植物たちは自分の分身ともいえた。それが、自分の知らない事が起きている。植物たちが、自分から離れようとしている、そのように感じたのだ。

 清人は、出てこなかった。代わりにマザーの声が、モニターを通して響いた。

 モナがここに来る事になった経緯を、マザーが説明したのだが、まだ春清には信じ難かった。取り分け、清人が自分でモナを招き入れた、と言うことがどうしても、納得できなかった。

 春清にとって、清人は、人形のような存在だった。清人が自分の意志を持つことは、この列車ハウスの秘密が外部に知られることに繋がる。そう考えた春清は、清人を外部から遮断してきたのだ。

 それが、自分の知らない間に、モナを招き入れたと言うことは、清人の春清に対する反抗に思えた。

 「清人は、まだ起きないのか。清人から説明を聞きたい。清人、何故お前は、モナをここに招いたのだ。」
 
 春清は、再び、大きな声で清人を呼んだのだが、返事はなかった。代わりに、門にあるインターフォンが鳴った。

 「里美です。清人さん、お話しが在ってきました。開けてもらえますか。」門の前に、里美と、斎藤、中西の3人が並んでいた。

 「何だ、あの者たちは。」春清は、突然の訪問者に、驚いた。

 「あの方たちは、警察の方です。もう何度かこちらにいらしています。」モナが答えた。

 春清にとっては、またも予想外の出来事だった。「何故、警察官が来ているのだ。それも何度も訪問しているとは。一体どうなつているのだ。」

 「清人坊ちゃまも、もう既に会ってお話しされていますが、お通ししても宜しいですか。」

 「だめだ、ここには外部の人間を入れるなと、言ってあるはずだ。帰ってもらえ。」と春清は語気を強めて拒否した。

 モナが「申し訳ありません。今は、訪問は・・・」と、断わろうとしたその時だった。

 「僕が、会うよ。門を開けて。」と、清人がベットから起きだして、そうモナに言った。

月の光 47

 清人から言われて、モナが門を開けると、春清は諦めて食堂車に退いた。

 『まだ自分が、姿を見せるわけにはいかない。彼らは、どこまで知っているのか、それを探る必要がある。』春清は、まだここの全てを、彼らが知っている分けではないだろうと予想した。

 暖簾をくぐって、里美が挨拶をし、「清人さんに相談があるのです。」と言った。

 「実は、あの雲から出てきた、蜂の事なんですけど。あれを捕獲する事は出来ないでしょうか。」
 
 里美は、大和署長がそれを希望していることを説明した。そうすれば、この事件の解決が見えてくる、とも言った。だが、それはモナやマザーにとっては事態を大きくする可能性があることに思えた。

 食堂車で様子をうかがっている春清は、『何を、馬鹿なことを言っているのだ。あれが、何者か、こいつらは知らないのか。まさか、ただの蜂だと思っているのか。」と、憤慨し、あきれていた。

 「それは、僕にはよくわからないけど、モナ、どうなの。」清人はモナに尋ねた。実際清人には、全くどうしようもないことだった。

 「蜂がいつ出てくるのか、良くわかりませんし、それに捕獲できるかどうかも私には、よくわからないのです。ごめんなさい。」モナも、ちょっと困った様子で断った。

 すると、斎藤が「それが、もし捕獲できなければ、この列車ハウスをどこか別の場所に移動するように、と言うのが、署長の意向なのですが。大変申し訳ないのだけど、それは、可能ですか?」と、心底申し訳ないと言う風に、顔をしかめて申し出た。

 『この列車ハウスを移動する?何の権限があって、そんなことを言っているのだ。ここは、私の城なのだ。』

 春清は、今にも、飛び出していって怒鳴りつけたい衝動に駆られるのを必死で抑えていた。

 「移動って、どこに移動するのですか?」清人が、深く考えもせずに尋ねた。

 『清人まで、何を言い出すのか。』春清は、清人の対応が信じられないほど愚かに思えた。

 「駄目だ、清人、勝手なことを言うな。この列車ハウスを移動するなど、とんでもないことだ。そんな事は、この私が絶対に許さない。」

 ついに我慢ができなくなった、春清は、大声で怒鳴ってしまった。

月の光 48

 食堂車で、大きな声がした。中西が「今、何か、声のようなものが聞こえましたよね。誰かほかにいるんですかね。」と、斎藤に聞いた。「ああ、確かに声が聞こえた。モナちゃん、誰かほかにいるのか?」

 モナが、困って清人の方を見た。すると、食堂車のドアが開き、春清が出てきた。

 春清は、怒ったようにそこにいる全員を睨んで、そして清人に向かって「お前は、ここで何をしているのだ。このものたちを呼んで、私の作ったこの列車ハウスをどうするつもりなのだ。」こう言った。

 清人は、父である春清を見た。

 『この人は、一体誰なんだ。何故、僕に向かって怒っているのだ。僕が何をしようと、それは僕の自由だ。この人が、父親?僕には、この人の記憶がない。長年放っておいて、そして今は、僕に怒りを向けている。それだけの人。』

 清人は何も言わず、黙っていた。

 春清は、今度は斎藤たちに向かって「君たちは、何だ。蜂を捕獲するとか、この列車ハウスを移動するとか勝手なことを言っているが。何の権限があって、そんなことを言っているのだ。」と、強く詰問した。

 「あの、私達は城外開拓区警察署の署員です。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。」と斎藤が動揺しながらも、取り繕うように挨拶をし、身分証明書と、裁判所の許可証を提示した。それを見て、中西と、里美も、身分証明書を示して挨拶をした。

 「失礼ですが、貴方はこの家のご主人の吾妻春清さんですか。」斎藤が確認した。

 「そうだ、私が吾妻春清だ。ここは、私の家だ、私の許可なく、この列車ハウスを移動すると言っていたが、どういうことなのだ。それは、警察署の意志なのか。裁判所の許可証があるのか。それとも、君の勝手な判断なのか。説明したまえ。」春清は、まだ怒りが収まらない様子だった。

 「いや、これは大変失礼なことを申し上げました。誤解されるような言い方で申し訳ありませんでした。移動すると決まったわけではありません。私の希望は、まずあの蜂を捕獲出来ないか、と言うことでした。」

 斎藤は、平謝りで、丁重に説明しようとした。

『参ったな、まさかご主人がいるとは思わなかった。そうと知っていれば、別の話し方を考えるのだった。しかし、もう遅い。ここはとにかく謝って、誤解を解くしかないな。』
 
 今は、何とかこの場の雰囲気を和らげたい、そう考えるのが精一杯だった。

月の光 49

 斎藤は、城外開拓区警察署及び科学捜査班がこの雲と、蜂やホタルがに関して、地球外生命の侵入を疑っていることを説明した。そして自分たちは、できれば騒ぎを穏便に終わらせたいと思っていることを話した。

 「では、君たちは、清人の為を思って、そう考えたというのだね。そして、植物については報告していないのだね。」春清は、少し冷静さを取り戻した。

 「はい、そうなのです。このままでは、事が大きくなるので、それを防ぐためにも、蜂が危険ではないことを証明したいのです。」斎藤は、春清の様子を見て、穏やかに話せそうだと思い、少し安心した。

 「マザー、私は、この事態をまだよく知らない。君の考えはどうなのだ。」春清は、全てを一番よく知っているはずのマザーに問いかけた。

 「ご説明する前に、お伺いしますが、春清さんは、この刑事さんたちについてどうお考えですか。私が、この場で全てを話しても宜しいと、つまり信頼できる相手だとお考えですか。」

 マザーは、逆に春清に尋ねた。これから話すことが、彼らの理解を超えることだと予想したのだ。

 「それは、まだだ、これから判断する。しかし、既に、彼らが植物の事も知っている以上、むしろ問題は、彼らが私を信頼するかどうかだ。

 もし、マザーの話を聞いて、彼らがそれを私ではなく、警察と相談するというのなら、それは彼らが私を信頼していない証になる。その場合には、当然私も彼らを信頼できないだろう。

 彼らが、清人のためを思って、植物の事も秘密にしているのが真実であれば、これからマザーの話を聞いても、それを秘密にするはずだ。それで初めて私も彼らを信頼することができるだろう。」

 春清の言葉は、斎藤たちにとっては、ぎりぎりの決断を迫るものだった。内容によっては、これから警察には秘密にしなければならない、と言うことだ。それは、警察と言う自らが所属する組織を裏切る事を要請されているのだ。

 かと言って、話を聞くのを断れば、それで春清の信頼は失われる。自分たちの任務は失敗に終わると言うことだ。

 「どうするのかね、斉藤刑事、それでもマザーの話を聞く覚悟はあるのかね。」

 春清は、斎藤に決断を迫った。
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