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ルーム・ノヴァスの伝説 (その 9)

タブレットの解読の9日目

講師オズメクが云う。
「唯一神ハジュに対する信仰は、ハジュの教えに従うことでメサス市民としての特権が得られ、エネルギーが優先的に与えられる、という現世的な実利によるところが大きかったのです。

しかし、帝国の崩壊によってそれが得られなくなった時に、人々は不安を覚えました。

更に打ち続く遊牧民との戦乱は、文明の破壊を見せつけたのです。これは、今まで真面目にハジュの信仰を守ってきた人にとっても困難な事態でした。文明の破壊は、自分自身の破壊、死を予感させ、頼るべき帝国政府も存在しない、太初の時代を思い起こさせたのです。

しかし、太初の時代は、自然の脅威が問題でした。今度は同じ人間が脅威となっているのです。
人間こそが文明の敵であり、平和の破壊者である、このように認識することは、心に深い傷をもたらしました。

今、必要とされるのは、この傷ついた心の救済だったのです。
ケマルはこの心の救済を説きました。
かつて唯一神ハジュによって予言された世界の統一とは、現世の利益を目指した帝国による統一ではない。そうではなく、一人一人の魂の浄化によって、なされる心の統一であるといったのです。

個人が心の中で、真に神の理想を、平和を祈って、偽らず、利得を求めず、正直に生きているのか?
隣人に対する、真心の愛を持って、それを実践しているのか?
困っている人、傷ついている人に、手を差し伸べているのか?

このようなことを、実践したときに心の平安を得られる。
逆に嘘をついている人は、心が苦しむことになり、真の平安は得られない。と説いたのです。

ケマルによる心の救済を説く新しい宗教は、唯一神ハジュを否定したものではなく、その信仰の在り方を問うたものだったのです。

ケマルの宗教は徐々にメサスの人々の心をとらえ、やがて周辺の都市や農村の人々の心もとらえたのです。人々は頼れる指針を必要としていたのです。

遊牧民による支配が大陸の隅々まで広がると、同時に圧迫された人々はケマルの宗教に帰依するようになりました。その宗教は『ケマルによる救済』と呼ばれるようになり、教会組織も広がりました。

各地の都市や農村の人は、表向きはその地方政府に従いましたが、一方で教会組織にも従うという二重の権威が生まれました。また、その政府は遊牧民に支配されていましたが、彼らは合理的なため、宗教については寛容でした。税さえ納めればよかったのです。

このように中世は人々が一つのゆるぎない権威に従うのではなく、幾つかの複数の権威と権力が競い合う時代であり、人々は、同時に幾つもの権威に従う存在となったのです。

ジームラ・ウントの人々も、この『ケマルによる救済』という宗教を受け入れましたが、この教えも、各都市で受け入れる際に少しずつ変化しました。それぞれの都市や地方の状況に応じて教えも変化していったのです。

ジームラ・ウントでは、『西の海にあるルーム人の伝説』と、この『ケマルによる救済』とが結びついたのです。次回は、その様子を見てゆきたいと思います。」

今日は、ここまでだった。

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