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『kの回想』 9

貿易風のマスター安倍は、池袋の東風貿易を訪ねてみた。

雑居ビルの3階にあるその事務所には、男が2人と女が1人いた。
ミルザという男に芦名思魔のことを尋ねたが、聞き覚えの無い名前だと言う。

アパートにいるのは、アシュクという男で、今はパキスタンにいて2週間後に戻る予定だという。
会社の代表はムスタグと言い、今は席を外していて戻るかどうかは不明だった。

ミルザは背の高い男で、アラビア風の長く白い服を着ていた。
もう1人の男は、短い髪で、黒いサングラスを掛け黒のスーツを着ていた。

貿易会社の社員には、不似合いな印象であった。
女の方は、日本人の様で、事務員風であった。

結局何もわからないまま、事務所を後にした。
1階のポストには東方貿易日本支社と書いてあった。

近くを歩いていると、ビルの非常階段で、ぼんやりと下を向いて座っている子供がいた。
不審に思い、声をかけると、母親の帰りを待っているという。

母親は東方貿易で働いていたのだが、数日前から帰ってこないのだという。
会社で聞いても、母親のことは誰も知らないというので、ここで待っているというのだ。

母親の名前は、ロクサーヌと言った。
子供は羽栗翔と名乗った。父は死んだという。

子供は黒い髪と明るい茶色の瞳で、浅黒く掘りの深い顔立ちだった。日本人には見えなかった。
芦名と何か関係があるのではないかと思った。

子供の家は、歩いて10分程のアパートだった。部屋の表札に名前はなくポストには、東方貿易と書いてあった。

やはりここは、芦名の部屋ではないのだろうか。
だが、清原も安禄山も、こんな子供がいるとは言ってなかった。
部屋の中に入ると、女物の靴と衣服はあったが、男の物はなかった。

芦名の部屋とは違うのだろうか、しかし東方貿易の名義であることは確かだ。


芦名思魔は、722年のソグディアナにいた、ロクサーヌという女商人として。

彼女はキャラバンの一員として、ザラフシャン山脈から南へ下りバクトリアへ移動中だった。もうすぐアムダリア川を越える。そうすれば、そこはもうバクトリア人の世界だ。アラブの軍隊からは逃げおおせるだろうか。

ここで、ロクサーヌという女性を助ける為に来たのだろうか。誰かを助ける為に来たはずだったが、それがこのロクサーヌなのか?

しかし、僕の意識は芦名思魔のままで身体はロクサーヌになっているのは何故だ。意識だけが移動しているのか、自分はいったい何者なのか。

疑問は尽きないのだが、今は考えている余裕はない。とにかくここを脱出し、安全な場所に行かなくてはならない。

このまま南下すればヒンズークシ山脈を越えインドに入る。2001年の世界ではアフガニスタンからパキスタンへ入ることになるだろう。

そこからどうするか?722年の世界ではこの辺りもアラブ人に征服されているだろう。ペルシャは既に滅び、インドにも安定した王権はない。やがてチベット人が動き出すだろう。
つまり、ここは無法地帯ということだ。

更に南へ下って海を目指すか。船に乗って南インドへ逃げる。それが一番安全かも知れない。しかし、このキャラバン隊はどこまで行くのか?海までは行かないだろう。
そうすると、東へ行って中国を目指すのか?

ロクサーヌはキャラバン隊の隊長に呼ばれた。不思議な女がいる、という噂が耳に入ったのかも知れないと思い心配だった。

隊長はロクサーヌにこう言った。
「ここから、敦煌へ行くキャラバン隊がある。お前のことは聞いているが、南へ行くのは大変困難な道のりだ。

東の敦煌へ行くキャラバン隊と一緒に出発した方がよい。東へ行けば、そこには我々の仲間が大勢いるし安全だ。

女性でも行くことのできる道のりだ。お前さえよければ、紹介してあげようと思っている。」

ロクサーヌはその言葉を信じて、東へ行くことにした。今はまず敦煌を目指そうと決意した。

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