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NEXT LIFE  銀座の画廊 10

 お茶を飲みながら、改めて店の中を見回す。天井には一面に大きな絵が描かれている。藍色の夜空に真珠でできた星々がちりばめられ、中心には大きな赤い星がある。赤い星は2重になっていて外側が赤く、中心は黄色くなっていてどちらもその境界が滲んでぼやけている。

 左手奥にドアがあり『宮殿の間』と書かれている。それを見ていると人形のように美しく薄い金髪の巻き毛をしたボーイが近づいて来る。「ご覧になりますか」と言うので「良いのですか」と聞くと、「清原様は御招待客様ですので」と言う。

 いつ招待されたのか変だな、と思いながらも案内されて、ドアを開けてもらう。すると、そこには緑色の絨毯のように短く刈られた草原がなだらかに起伏しながら続き、真っ青な空に金色のまばゆい光が射し、左手にはヒマラヤのように神々しく巨大な雪山の連なりが見え、右手の奥には碧い湖面に太陽の光が反射する、湖と呼ぶには小さな池が見える。

 池の手前にテントがあり、その中にテーブルと椅子が見えた。
高原のように透明な空気の中でその静寂なたたずまいは、この世のものとは思えなかった。そして、その透明感は私にかつて訪れた、勿来の記憶を呼び起こさせた。

 茨城から太平洋岸を車で走り、坂道を登っていくと突然に視界が開ける。右手のはるか下方に断崖絶壁の連なりを見下ろしその先には碧く穏やかな太平洋が見える。関東から、東北へと入った途端に空気が透明度を増す。初めて見たときにはその透明感に驚かされ感動すら覚えたものだ。

 しかし、勿来(なこそ)は、古くから歌にも歌われた勿来の関を連想させ、そこが和人と蝦夷の境界だった言う。勿来は禁止の意味で「来てはならない」という意味だという。蝦夷に対して、そういったのが由来だと聞くが、しかし実際に「勿来の関」が何処にあったのかは確定されていない。その存在すら疑われているという。

 その部屋の透明な空気は私に、幻の勿来の関を連想させる。そして、ここには「来てはならない」のだと思い、招待客だというボーイの声を無視して、私はその店を去ることにした。

 店を一歩出ると同時に携帯が鳴る。会社にかかった電話が転送されているのだ。店の前で立ち止まって電話に出ると、クレーム発生のようである。会社に戻って折り返し電話しますといい、一旦電話を切る。
ふと気が付くと、店の姿はなく、あったはずの通りの角も見えなかった。
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