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NEXT LIFE  ガネーシャ 3

 畔倉慶太の新居は3階建ての小さなマンションの2階だった。
1DKの間取りで、以前の住所の荷物の大部分は山名の家に運んだようだ。名刺を渡して挨拶をすると、まずお詫びをした。そして、状況を確認しようとしたのだが、慶太は一方的に話し始めた。

「あれは、母の、いえ祖母から母がもらった唯一の思い出の品なんです。母には、父親がいませんでした。その父親から祖母がもらったプレゼントだったのです。母の父親が誰だったのかは今も分りません。祖母もそのことには何も触れなかったようなのです。その祖母も、早くに亡くなり、母は母方の祖父母に引き取られて育ったんです。」

 一気にそう話すと、慶太は興奮のあまり、目が充血していた。
私は、突然の話についていくことができなかったのだが、型どおりに「そうでしたか、それは大変なご苦労をなさったんですね。お辛いことと思います。」などと、意味も分からず相槌を打った。

 いずれにせよ、その置物が慶太にとって特別な意味を持っているのだということは、理解した。

「そうすると、その置物は、お母様の大事なものだったのですね。」

「はい、そうです。」

 私は、この引っ越しで、特にこのクレームで核心部分だと思われることを尋ねてみた。

「お母様は、今、いらっしゃいますか?」

そして、予想された答えが返ってきた。

「いえ、今はいません。」

「そうですか。そうしますと、その置物は今はどちらにございますか?」

「今は、紅葉丘の祖父母の家です。」

「そうでしたか、お母様は、いつ頃戻られますか?」

「わかりませんが、それが何か関係ありますか?」

 私は、しまった、と思った。つい、余計なことを聞いてしまう。
永年の金融業の癖が出てしまった。
相手の触れてほしくない所を、つい触って見たくなる。
そして、クレームをますますこじらせてしまう。

 畔倉香は、行方不明なのだからそのことを聞いてはいけないのだ。

「いいえ、申し訳ございませんでした。では、これから紅葉丘のお宅へ伺ってみますので、これで失礼致します。またご連絡を差し上げます。」

 畔倉慶太の様子から、このクレームは間違いなくこじれるだろうと予想されて、気が重くなった。

 過去の経験から、思い出の品ほど厄介なものはない。取り替えが効かないのだ。元通りに戻してほしい、と言われるのは目に見えている。だが、たいていの場合、元には戻らない。代替品か商品券になるのだが、思い入れが強いほど、納得されない場合が多い。

ともあれ、置物の状態の確認のため紅葉丘の山名家に向かった。
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