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NEXT LIFE  ガネーシャ 9

「誰だっ!貴様は、波多野かっ!今頃何をしに来たのだ!」
突然、廊下の向こうから老人の叫ぶような怒鳴り声が聞こえた。

「あれは、父です。もう、近頃は記憶が定かではないのですよ。時々、ああやって昔のことを思い出して、怒りがよみがえる様なのです。

父さん、こちらは引っ越し会社の人で、ガネーシャを直しに来てくれたんだよ。波多野じゃないから、心配しなくて大丈夫だよ。

清原さんこちらへどうぞ、ここに響子の位牌があるのです。」

老人のいる部屋に案内されて、入るとそこには大きな仏壇があった。
先祖代々の位牌と共に、響子の位牌も祀られていた。
その位牌を、老人は毎日見て何事かを祈っているのだろうか。

 こうしてみると、父親は、本当に響子の身を案じていたのかも知れない。だとすると、波多野を赦せなかったのは、やはり響子のためを思ってなのか。

 だが、響子の妊娠が発覚してから、程なくして波多野は消えた。
きっかけは、借金だという。もし、その事がなかったら、或は響子と波多野は、障害を克服して幸福になったのだろうか。

 夜逃げに失敗しなければ、違った人生があったのだろうか。
少なくとも、その失敗によって、幸福への路の一つの可能性をつぶしたことになる。

 私は、自分が出会った白糸台のマンションの客を思い出した。
あの時、もしかすると私は、一人の人間の人生の可能性をつぶしたのかも知れない。あの男の「俺は、もうダメだ」と言いながら天井をうつろに見上げた姿が頭に浮かび、それが波多野という男と重なってしまう。

 部屋には、燃えるような赤い髪を逆立てて、赤ん坊を抱きしめる女の絵が飾られていた。

 その赤い髪の女が、絵の中から飛び出して来て、私を睨んでいる。
私に、『返せ』と言っている。声は聞こえないのだが、そういっているような気がする。何を返せばよいのだろう。私は、この女の何を奪ったというのか。あったはずの幸せだろうか。

 だが、私が一体何をしたというのか。仮にあの白糸台の男が、波多野その人だったとしても、だからと言って、私が何をしたと言うのか。
借金をしたのも、響子の前から消えたのも、責任はその男にある。
私を恨むのは、筋違いではないのか。

そうは思ってみるものの、心の奥には後味の悪さが残る。

「もしよろしかったら、線香の一本もあげて行って頂けますか。
これも何かの縁でしょうから。ガネーシャを直していただけると聞けば、響子も喜ぶでしょう。」

何か釈然としない思いはあるが、勧められるままにお焼香をした。

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