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ロクサーヌ (その33)

   予定通りなら、今頃は島伝いに進んで種子島辺りにつくはずだったが、私たちの船は嵐で流された為なのか、見渡す限りの青い海と空の中にただじっとしているように思えた。風もなく、マストも1本折れたせいか、進まない。島影一つ、波一つ見えない海で私たちは数日を過ごした。それからようやく異変に気が付いた。進まないのではなく、動いていないのである。よく見ると、海も波がないのではなく動いていないのである。凍り付いたようなその世界に私たちは取り残されていた。いつからそうだったのか、思い出せない。船長を呼びに行くが、返事がない。他の船員も、否お坊さんやペルシャの神官たちも、乗客たちも誰も動かない。動いているのは私たち7人だけだった。私たちの船は、透明な氷に包まれたようだった。そして、初めはゆっくりと、やがてハッキリと分かる速さで上昇していたように思える。だが、動いてはいない、何の重さも抵抗も感じられないのだ。ただ、海がどんどん遠くなり、地球全体がどんどん遠ざかっていくように思えた。私たちの船は動いていない、だとすれば地球が遠ざかっているのか?しかし、波も風もなくただ遠くに小さくなっているのだ。地球が、世界が小さくなっているのか?それとも私たちが大きくなっているのか?私たちは、よくわからぬまま決断を迫られた。緑色のカバンの中から、地図を取り出して開く。眼下に見える陸地の形はキュウシュウの形だった。私たちは、飛び降りるかどうか迷っていた。だが、遠ざかるスピードはますます速くなり、飛び降りる決断の時も失った。空がどんどん近づいてくる。青かった空は真っ暗になり、遠くにあったはずの深淵もまるで手を伸ばせば届くかのような気がしてくる。そして、その暗い空の向こうにまた別のもう一つの空のようなものが見えた。一瞬だがそれは、夕焼けのようなオレンジ色の美しい空に思えた。
 次の瞬間、私たちの船は突然落下し始めた。落ちたのではないのだが、今度は地球がどんどん近づいてくる。なんの動きも感じないまま、ただ映像だけが大きくなって近づいてくるような不可思議な感覚。しかし、そのスピードに私たちの心は恐怖で一杯になった。私たちはたまらず、船の客室の中へと避難した。恐怖の時が終わり、私たちの船はまた海の上に着水した。まだ、何も動きはない、時が止まったかのような静けさのままだ。船の後ろには、小さな島が見え、前方には遠くに港が見えた。私たちは、船を出て、海の上を音もなく歩いて行った。全員が港に上陸して後ろを振り返ると、船は消えていた。海は、相変わらず静かだったのだが、鳥が飛んでいるのが見えた。
私たちが上陸したのは、鐘崎という小さな港町だった。遠くの小島は、神の島と呼ばれていた。

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