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月の光 13

 柳田里美は9歳で父を亡くし、それからは福祉センターの管理下で母子家庭支援手当を受け取りながら生活していた為、月に一度の福祉センターの職員の家庭訪問日には、母がいつも緊張しながら対応していたことを覚えている。

 里美自身も、生まれつきの斜視があるためか、学校生活にもなじめなかった。今では、近視のせいもありメガネをかけているが、それでもどこか他人を正視することに気が引け、自信なさそうにおどおどしてしまう。

 里美が、資料課に配属されたのは、警察学校を出てから2年目だった。斎藤は日ごろ乱暴な言葉使いだったが、それが却って特別扱いされずに済むためか、斎藤に対しては、安心して自己主張することができた。

 「私が思うのは、彼はまだ4歳という年齢で、会話も不自由な外国に来たということです。それは、法的には母国かもしれませんが、彼にとっては見知らぬ外国だったのではないのかと思います。

 保育所では、その外国人を受け入れる体制が不十分であったのではないか。そして、彼が起こした事件に対しても調査不足だった可能性が窺えます。確たる証拠もなく、彼は危険であると断定され、一般社会から隔離された様に思えるのです。

 勿論、彼が他の子供たちを傷つけた、ということが事実だったということはあり得ます。ですけど、その場合にも、彼の中で何が起きていたのか、もっと時間をかけて、聞き取る事が必要だったのでは、と思います。
 
 彼が発したという、『エンマリシュー』という言葉一つ解明されずに、彼は、保育所と障害者支援センターによって、たった4歳で危険な精神障害者に作り上げられたのではないか、と思っています。」

 「そうすると、お前は、社会が悪い、と言いたいのか?」

 「社会とまでは言いませんけど、吾妻清人が一方的に非難されるべきだったのか、については疑問に思っています。」

 「ふーん、そうか、だがなお前も政府に仕える役人の一員だ、ということは忘れない方がいい。この社会で大事なことは、第一に秩序の安定を維持することだ。俺たち警察官は、その為に居るのだからな。

 理由は何であれ、秩序を乱すものを取り締まるのが役目だ、そして誰が秩序を乱したのか、それを判断するのは俺たちではない。俺たちは、行政府と、裁判所の命令によって動くだけなのだ。

 だが、まあお前の言い分は分かった。もし、お前が吾妻清人に関して、もっと調査する必要があるというのなら、俺は止めない。勝手に調べればいいさ。」

 里美は、思い切って自己主張したのが、意外にも斎藤に認められたような気がして、嬉しさと気恥ずかしさから少し頬を赤らめていた。

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