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月の光 30

 「祝福ですか?」と尋ねる千春に、吾妻が静かに答えた。

 「そう、それで考えて見たのだ。この花たちは、美しく咲いているのは何故なのか。それは、君が毎日花たちを見て、美しいといったからじゃないのか、褒め称えたからじゃないのかと。

 だから、この花たちは、むしろ君の為に美しく咲いているのじゃないか、と思う。」

 「あの入口のドアを飾るバラのような花。」

 吾妻がそう言うと、入り口のドアが赤や白、黄色などの色とりどりの、バラのような花たちのアーチで飾られた。

 「そして、列車の窓を飾る、花。」

 すると、窓の枠が薄いベージュ色の花で縁取りされた。

 「この花たちは、みんな君を飾る為に咲いているようだ。」

 そうすると、千春の全身が、花々で覆われ、花たちは、ふかふかのベッドのようになり、千春の身体を包み込む。

 吾妻の言葉は次第に熱を帯びてきた。

 「実をいうと、僕は乾に嫉妬していたのだ。この列車ハウスを作ったのは乾で、その中の植物を育てたのは君ではないかと思っていた。これを作った君と乾に嫉妬していたのだよ。」

 『嫉妬?』という吾妻の言葉が、千春の心に引っ掛かった。

 「でもね、僕は、気が付いたのだよ。僕は初めから、君を愛していたのだと。乾への嫉妬は、そのせいだったのだ。乾と君が親しくしていることが、苦しかったのだと。」

 『私を愛している?』吾妻の唐突な告白に、千春は驚いた。

 「初めて、君がここに来た日に、実は僕は激しいショックを受けたのだよ。何故だかわからなかったけど、目の前にいる、君の姿がまるでフラッシュを浴びたように何度も激しく点滅したのだ。

 それ以来、僕の頭に君の微笑む姿が焼き付いて離れなかった。自分でもどうなっているのか分からず、苦しかったのだよ。」

 「でも乾がいなくなってから、この植物たちが、花を咲かせ、この箱舟を作り変えていった。この花をこんな風に育てたのは、僕と君だ。そう思うと、何故だか君がとても愛おしく思えた、それで、気が付いたのだ、君を愛していたのだと。

 この箱舟は、僕と君の為に、こんな風に形を変えたのだと思っている。今では、僕たち2人がこの箱舟の主人なのではないかと思っている。その証拠に、こんな風に、僕の言葉通りに花たちは動き出すのだから。」

 千春は、吾妻の言葉が不思議に思えたのだが、確かに花は、吾妻の言う通りに動く。

 「僕は、この箱舟は、僕たちが見つけるのを待っていたのではないかと思っている。この花たちは、僕達2人が結ばれるのを祝福しているのだよ。きっと、結ばれることを待っているのだと思う。」


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