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ロクサーヌ (その38)

 私はヒトミ、研究所で働いて4年になる。私とkは子供の頃からの友人だ。中学に入学した頃のkは、少し変わってはいたけれどバスケット部に入って1年の時からレギュラーを任され、勉強もでき、絵も上手だった。それが少しずつ暗くなり、部活もやめて、一人でいることが多くなった。それでも、完全に孤立しているわけではなく、ただ人と話して笑っている時と、一人で黙っているときの落差がありすぎた。黙っている時のkはまるで別人で、近寄りがたいものがあった。高校に入ってからも、相変わらず部活もせず、一人でいるときが多かった。何を考えているのかわからないというのが大方の印象だった。
 kが変わっているのは、皆と同じ行動をとらないせいだと思う。入学式の写真で、みんな制服を着ているのに一人だけ私服で、女子と間違えられることもあった。でも、ある事件のために皆より1年遅れて大学に入ってからは、かえって明るくなったように思えた。その代わり、真面目だった頃のkの印象は薄くなりいつも遊んでいるようにしか見えなかった。大学も休みがちで、誰か私の知らない人たちと遊んでいるようだった。今思えば、kは不安定だったのだろう。突然現れて、また突然いなくなる、そんな風に変わってしまった。
 今の研究所に入れたのも偶然で、たまたま麻雀で知り合った先輩のツテを頼んだからだ。就職活動もしていなかったようだし、将来の夢も聞いたことがない。それなのに、家の仕事を継がなければならない者や、親と同じレベルの企業で働かなければならない多くの男子から見れば自由でうらやましく思われていたようだ。
 私たちの入った大学では、将来のレールが決まっているものが多かった。そこから外れることは許されず、付き合う友人も当然にそのレベルでなければならなかった。高校の時も先生からは「kは自由でいいなあ」と言われていて、その為大学に進学したこと自体が驚きだった。もっとも、k自身は何の目的もなく、何のレールもなく生きることが「砂漠を歩いているようだ」と言っていた。他の人からは自由に見えていたことが、k自身には意外だったらしい。
 kには、誰か特定の彼女がいたという話を聞かない。私の知る限り3人の女子が告白しているが、結局誰とも付き合ってはいない。3人目は私なのだが、私はある日kと一緒に駅のホームで電車を待っている時に唐突に「結婚しようか」と言ってみた。kは黙っていた。返事に困っていたのだろう、そう思って私は「やっぱりダメかあ」と言ってその話は終わりにした。
この研究所を辞めると聞いて、やっぱり辞めたのだとも思うし、一方でこの先どうするのかが気にもなってしまう。
私はkと付き合ったり結婚したりすることはないのだろうと思う。けれどkの作ったロクサーヌを、私はkの代わりに見守っていきたいと思った。

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