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月の光 43

 科学捜査班が絡んでいなければ、この騒ぎはとうに終わっていることである。もう列車ハウスの周辺は封鎖されているので、マスコミも、外部のデモ隊も近寄らない。そうすれば、騒ぎも起きないはずである。

 しかし、列車ハウスを移動させることは、斎藤には不可能な事だと分かっている事なのだが、大和署長はそれが可能だと思っている。署長に列車ハウスの真実を知らせずに、この問題を終わらせるにはどうすべきか、それが斎藤の悩みだった。

 列車ハウスの中がどうなっているのか、それを知らせることは、まず第一に清人を危険にさらすことだ、と斎藤には思えた。

 『やっと清人は、心を開きかけたのだ。清人の心の中までは、もちろん俺には分からない。だが、長年たった一人で外部の誰とも接することなく、生きてきたのであれば、それをいきなり環境を変えて、社会に放り出すことはできない。

 心が傷つくに決まっている。その位のことは俺にも分かる。だから今は、ゆっくり時間をかけることが必要だ。信頼と言うものを築くことが、大事なのだ』と斎藤は考えた。

 だが、それは大和署長にとっては、ほとんど問題にならないことだった。

『18歳にもなれば、一人前だ。多少環境が変わったくらいで、問題にはならない。むしろ、新しい土地で新しい生活が始まるというのは、楽しみでさえある。』何も事情を知らずに、署長はそう考えていた。

 大和署長は、別に列車ハウスを移動させなくても、それが解決するのであれば、それでも良い、と考えている。問題は、科学捜査班をどう黙らせるかだ。

 もし、斎藤が言うように、それがただの蜂だったとしても、その証拠がなければならない。

 「列車ハウスを移動するか、もしくは、ただの蜂で何の問題もないのだと、証明するか、どちらかだ。次で、この件を解決するように、必ず証拠を持ってくるのだ。分かったな。」

 斎藤は「承知しました。次には必ず、証拠を確保してきます。」そう約束して、署長室を出た。だが、何の考えも今のところは浮かばなかった。

 『まったく、面倒なことに関わったな、どうするか。中西に相談しても全く頼りにはならないしな。こんな事件を解決する方が無理だ。証拠を捏造すれば簡単だが、それが通るほど、世の中甘くはないだろうしな。

 考えてみても、証拠を捏造するほどの重大な事件とも思えず、かといって、何もしなければ、事態は複雑になる予感がする。科学捜査班が、直接捜査する、何てことにならなければ良いが。』
 
 定年を間近にして、斎藤の悩みは深まるばかりだった。

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