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月の光 79

 次の日の朝、斎藤はずっと夢を見ていた。子供の頃住んでいた、田舎の田んぼや、畑の風景。山が黄色く染まる秋の頃、少し寒くなって、田んぼに来る鳥の数が増えた。

 2両編成の、列車、多分電車ではない、ディーゼルカーだろう。その列車に乗って、いくつかの駅をゆっくり通り過ぎる。誰もいない無人の駅、外を見ても、田んぼばかりで、道すら見えない。

 どこから駅に来るのか、不思議だった。線路沿いはススキの穂がずっと続き、何故線路沿いに生えているのか、それも不思議だった。

 冬が近づくと、黄色くなった田んぼには白鳥が群れを成してやってくる。カラスの群れも、田んぼで休んでいる。少し先には低い山が、続き、雲が地上3mほどの杉の木の間から、湧いて出てくる。まるで高原のようだが、山形の田舎はそんな感じだった。

 列車には一つの車両に4、5人の乗客しかいない。それでも、朝早くには学生の姿で一杯の時もある。

 何処の駅だったか、おかっぱ頭の女の子、中学生か高校生か、短いスカートに黒いタイツをはいて、ちょこんと座っていた。濃紺の制服姿が何だか懐かしい。3駅ほど先で降りた。ほんの少しの時間の楽しみだった。


 電話が鳴った。「はい、斉藤です。」警察からだ。「どうしましたか。もうお昼過ぎてますけど、無断欠勤ですか?」人事からの連絡だ。

 『無断欠勤はしたくはないが、どうにも頭の調子が変だ。どう言ったら良いのか、痛いとか、具合が悪いわけではない。だが、要するに意識がふらついていて、今のこの場所にとどまれないのだ。

 あちこち、別の時間や場所に飛んで行ってしまう。今もそうだ、起きているのに、まるで夢を見ているようで、現実感がない。今日は休ませてもらおう。』

 「すいません、どうにも体調が悪いので、有給休暇にしてください。」

 「分かりました。次からは、事前に連絡くださいね。」

 長く働いてきたが、こんなことは初めてだな。どうしたんだろう、昔のことが次々と思い出されてくる。それも、田舎の思い出ばかりだ。田舎の景色が懐かしい。少し寒くて、寂しい感じ、そして、少し甘くてやわらかい田舎の料理。

 そばも、ラーメンも、みんな味が違う。今では関東の味にもなれてしまったが、どういう訳か、今日はあの田舎の味が恋しい。玉こんにゃくと、芋煮が無性に食べたい。

 参ったなあ、今から田舎に行ってみるか。そうだ、その前に中西に連絡をしてみるか。あいつも、具合が悪くなっているかも知れない。

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