fc2ブログ

月の光 85

 ホテルの朝食も多種多様なおかずがあり、和食も洋食もある。だが食べ過ぎないように気を付けた。若い頃は、満足するまで食べられるのだが、年を取ってからは、満足するまで食べると、その後食べ過ぎで具合が悪くなる。困ったものだ、自分で思っているよりも、体は衰えているのだろう。

 ホテルを出て、天童駅からまた列車に乗る。1時間も、田舎の風景を眺めている。これだ、夢に出てくるのは、この田園風景だ。低い山、まるで丘のようだが、丘陵というのだろうか。だが、丘とは違って、その樹木の量は圧倒的だ。高く伸びた樹に絡みつく蔦類。樹木はすっかり蔦の葉に覆われ、樹木本来の葉っぱが見えないものもある。

 そして、田んぼや畑、あれは蕎麦だろうか、麦だろうか。鳥が騒がしく、ざわついている。線路に沿って続くススキの穂並み。何処にも、人影がない。ところどころに人家は見える。だが、歩く人の姿は見えないのだ。

 新庄で乗り換え、余目へ行く。今度は田園風景とはまた変わって、最上川が見える。トンネルも増える。うねうねと続く最上川の流れ、その岸沿いには山が傾れ落ちてくる。その絶景を見ながら、余目駅に着くと、一旦降りて、乗り換えの時間まで、駅近くの中華そば屋によってみる。

 中華そばを食べるのだが、この味がまた関東風とは違う。一言でいえば優しい味だ。客は常連客しかいない。1950年代の映画のポスターが壁に掛けられている。その映画館は閉鎖され、もう存在しない。

 俺の子供の頃、映画館が次々に閉鎖された。街も、商店がつぶれシャッター通りなどと言われていた。

 鶴岡に着く、この街も人影がない。駅前には観光客狙いのショッピングセンターもあるにはあるが、客はほとんどいない。

 バスに乗って、羽黒山へ行く。山頂へ向かって、有料道路を進む。山の中、緑と紅葉と、茶色い葉っぱと、霧のような雲と。全ては、昔の記憶のままだ。だが足りないもの、それは匂い。

 そうだ、この記憶の中では、匂いがうまく再現されない。それが、妙に静かな、無機質な感じを生むのか。考えてみれば、若い頃も、匂いを一杯嗅ぐことがなかった。手で触ることも少なかった。

 何もかもが、映像の世界で済まされ、実際に体験していなかったのだろう。

 山頂に着くと、雪交じりの雨が時折降っている。だが、杉木立の参道を歩くと、直ぐに止んで晴れた。杉の匂いを思いっきり嗅いでみる。これだ、この感じだ。参道を抜けると、広々とした境内にでる。赤い鳥居をくぐり、池の脇を抜け、三山神社にお参りする。

 ここは、日本の歴史の始まりからある、古い聖地。空海や、行基も来たという。神道、仏教、修験道、全ての聖地。羽黒山が、現世を表し、月山が死後の世界、そして湯殿山で生まれ変わる。

 ここを出て、新しい自分を生きる。還暦を機に丁度良いじゃないか。蜂やホタルのおかげで、かえって頭に刺激ができたというものだ。

 大沢美穂が言っていた、今の世界をどう思うのか、それも2020年の過去を振り返ってみれば、少し見えて来るかも知れない。

関連記事
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

gasset

Author:gasset
FC2ブログへようこそ!
歴史的事実に改編を加えた妄想小説です。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
03 | 2024/04 | 05
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR