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月の光 97

 検査室の窓から顔を出し、ホタルが来るのを待っていたが、ホタルはいつまで待っても現れなかった。その内に、白衣を着た医務官らしき者が2人検査室に入ってきた。

 斎藤達がいるのに、気が付かないのか、気が付いているのに無視しているのか、2人の医務官は無言でシャーレの前に立っている。

 『何だか様子が変ですね。この男たちは、自分たちが見えていないのですか?』中西が、不審に思って、斎藤に確認する。

 『うむ、どうなのだろう。記憶の中だから、俺たちが見えないのかも知れないが。』斎藤も、少し違和感を感じていた。

 暫くすると、別の医務官数名を従えて、乾が現れた。

 『乾が来たな。あいつにも、俺たちが見えていないのか?試しに、声をかけてみるか。』
 
 斎藤は、不自然な状況を確認するために、乾に向かって呼びかけてみた。『乾さん。』

 すると、乾が返事をした。

 『斎藤さん、どうしましたか。私を探していたのですか?それとも、何か別のものを探しているのですか。』

 何だ、乾の奴、見えているのか。『いや、ここにホタルが来たはずなんだが、いつまで待っても、来ないから変だと思ってね。』

 『ホタルですか、さあ、私は見ていませんが。それよりも、あなた方の細胞は、もう確認しましたよね。まだ、ここに何か用事がありますか?』

 乾は、平然としていた。斎藤たちがいても、何も驚いた様子はない。

 『どうしましょうか、斎藤さん。何か、様子が変ですよ。ここは、乾の記憶の中のはずなのに、さっきの話の続きになっていますよ。』

 中西は、もしも記憶の中ならば、検査室で、細胞を確認する会話などあるはずがない、と思い不安になった。

 『そうだな、どうやら記憶の中に入るのに失敗したのかも知れない。退散しよう。』斎藤も、同じことを考えた。

 2人は、急いで、ドアを開けて、検査室の外に出た。・・・はずだったが、目の前に、乾がいた。そして、傍らには、シャーレに入った細胞があり、橋本もいる。

 「どうしましたか?」乾が、何もなかったように、斎藤に話しかける。

 斎藤は、思わず中西の顔を見た。中西も、動揺して眼が泳いでいた。

 「いや、何でもない。細胞は確認した。」

 『絶対に何か、おかしい。さっきと同じ場面を繰り返しているのか。』斎藤のこめかみから汗が流れた。

 「けれどもう一つ確認したいのだが、あの日、俺たちが帰った後、ここにホタルが飛来したという情報がある。そのホタルは見ましたか?」

 「ホタルですか、さあ、私は見ていませんが。まだ、何か用事がありますか。」

 『駄目だ、さっきと同じ会話を繰り返してしまう。』斎藤は、何度も同じことを繰りしているような気がして恐怖を感じた。記憶の中に入ったのではなく、閉じ込められたのではないか、そう思った。

 「いえ、もう用事は済みましたので、これで私達は失礼します。中西、帰ろう。」

 2人は、怯えたように、急いで航空宇宙センターを後にした。

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