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月の光 109

 橋本達の乗った飛行機が、関門海峡上空に差しかかった時、一帯は厚い雲に覆われていた。九州と、本州を分ける海峡は、空まで分けていたかのようだった。

 「もうすぐ、板付基地空港ですが応答がありません。」陸軍省から派遣された機長の大島がそう言って、指示を仰ぐために橋本を振り返った。

 「すべての、通信が遮断されているようですね。目視での着陸は可能ですか?」

 「この雲の厚さでは、地上も霧で覆われていると思います。かなり難しいかと・・・」

 「そうですか。分かりました、我々の方で対処しましょう。」橋本はそう言うと、傍らの派遣職員に向かって、操縦をするように指示した。

 NGX4001というネームプレートを付けた、一人の職員が、機長に代わり操縦席に着いた。

 「飛行機の操縦は初めてですが、できますか?」橋本の質問に、操縦席に座った職員は黙って頷いた。

 下総香取の航空宇宙センターからの、飛行期間中、彼ら職員たちは誰一人、言葉を発することがなかった。それだけでも、この陸軍省から派遣された大島にとっては、余り快適ではないフライトだったが、ここで操縦を代わった派遣職員が、飛行機の操縦経験がない事を知り、ぎょっとして目をむいた。

 「橋本本部長、その方は操縦経験がないのですか?」

 「ええ、でも心配は要りません。彼らは、特殊な訓練を修了していますので。今回も、彼らにとっては実戦経験を積むためのものなのですが、電子機器とのアクセスは彼らにとっては全く簡単な事なのです。」

 大島は、橋本の説明を聞いても、到底納得できなかったが、この空の上では今更どうすることもできなかった。

 濃い霧の立ち込めた、板付基地空港は、それでもかろうじて赤いライトだけは点灯していた。派遣職員100名を乗せた、大型の軍用輸送機は、無事着陸した。

 出迎えたのは、陸軍省九州防衛局の田上局長だった。

 「田上さん、早速ですが、この板付基地空港も既に通信回線が切断されているようですね。状況を説明してもらえますか。」橋本は、出迎えた田上局長に挨拶もせずに、いきなり状況確認を求めた。

 「はい、実際のところ、北部九州地方管区全体で通信網がマヒしています。ですから、住民の日常生活もままならず、かといって、我々の方でも応援どころではないと言うのが現状です。」

 「ということは、政府としての機能が果たせていない、ということですか。」

 「お恥ずかしながら、そうなります。」

 「対策はどう考えているのですか。」

 「現在の所、各地の避難所に住民を集めているところです。通信による連絡網が使えないため、避難所に、食料や民生品を運ぶことで、住民の安全を確保したいと考えています。」

 田上局長の説明は、通信網が破壊された九州北部が既に、住民の安全も脅かされるような非常事態であることを示していた。

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