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月の光 114

 下総香取の国立航空宇宙センターでは、橋本の報告を受けて、乾が捕獲されたアリの分析を行った。

 「このアリの生態そのものは、自然界のアリとあまり違いはありませんね。女王アリとそれを守る兵隊アリ。問題は、働きアリがプラスチックやゴム類を食い破り、中の配線をショートさせてしまうこと。これは、原子力発電所にいた白アリとも共通しています。

 自然界のアリが、大量にコード類を食いちぎると言うことはないでしょう。白アリの場合には、ありえますけどね。どちらのアリの場合も、何かの指示を受けるような受信器は備えていません。

 つまり、ホタルの光を受信するような機能は持っていないのです。ということは、自然界のアリと同様に口に含んだフェロモンなどの化学物質でコミュニケーションを取っているのかも知れません。」

 「ということは、このアリたちは、今は、誰の指示も受けずに行動しているということですか?」

 「そうですね、今現在は指示を受けていない、言い換えれば指示はプログラムされている、ということでしょう。」

 「プログラムされているということは、遺伝子操作された、ということでしょうか?」

 「遺伝子なのか、或は高度に科学的なプログラムによって脳を生成させられたのか。彼らの、脳を分析してみなければ分かりませんが、単純に食性を変化させただけとは思えません。

 アリの脳は、フェロモンを信号として解読することで、コミュニケーションを取ります。その、部分に変更が加えられたのでしょう。」

 「フェロモンということは、匂いですね。」

 「はい、そうです。多分我々には認識できない多くの種類の匂いを嗅ぎ分けているのでしょう。」

 「匂いを高度に言語化しているということはあるのでしょうか?」
 
 「ええ、それがあるとすると、厄介ですね。非常に多くの匂いに、固有の意味を持たせている。そのような技術があるとすれば、彼らは、人間の言語以上に能力を持っていいるのかも知れません。

 そして、そのような言語能力を持ったアリが、一つのコロニーに百万単位の数で存在していたとすると、それに対抗するのは容易ではない事になります。」

  橋本は、玄界灘原子力発電所で見た、白アリに埋め尽くされた様子を思い出し、気分が悪くなった。確かに、あの数の多さでは、駆除しても切りがない。白く蠢く、目のない虫たちにもしも、囲まれてしまったら、普通の人は恐怖で逃げ出すしかない。

 乾と橋本は、アリに対する分析を行ったのだが、今のところ対策は困難だった。それは、何といっても、その数の多さである。自然界のアリや白アリですら、根絶は不可能である。

 まして、それが何らかのプログラムによって高度な言語能力を持っているとすれば、今後どのような行動に出るのかも、予測できなかった。そして、北部九州では、働きアリに対処しただけで、兵隊アリにはまだ対応できていない。

 NGX4001の放ったアリは、親衛隊のアリによって捕獲されてしまったのである。現時点では、兵隊アリに勝てない可能性があった。
 
 このように、乾たちがアリの分析を行っていた頃、陸軍省ではある噂が流れていた。それは、航空宇宙センターから派遣された職員が、ロボット兵士ではないか、というものであった。

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