fc2ブログ

ロクサーヌ (その75)

2140年8月6日(土)トーキョー
  その人は、トシマク平和通りの喫煙所で、紺とピンクの日傘をさして立っていた。髪は金色と茶色で巻き上げられ、黒いサングラスをかけ、耳には星のピアスがあり、剃り残した口ひげが数本のぞいていた。手と足の爪はカラフルに塗り分けられ、胸が大きくはだけたグレーのワンピースに黒のゆったりした上着を羽織っていた。
 私は尋ねてみた。
「私はロクサーヌと言いますが、少しお尋ねしてもよろしいですか?」
「ええ、何かしら?」
「あなたは LGBT ですか?」
「何よ、失礼ね。いきなりLGBTって、どういうこと?」
「すみません、女性なのか、男性なのかわからなくて」
「そんなこと、どっちでもいいでしょ。あなたね、見た目で人をLGBTって決めつけて、レッテルはるのは差別の始まりよ。」
「ごめんなさい、お気に触ったのなら、謝ります。ただお話が聞きたかったので」
「いいわよ、私はそんな狭量な人間じゃないからね。私はね、女装男子よ。ただ、女の子が好きなだけで、女の子の格好がしてみたいのよ。でも、男の子もかわいい子は好きよ。でもね、LGBTとかってレッテル張られるのは嫌いなの。私は、私で居たいだけなのよ。」
「あなたは、日本人ですか?」
「もとは、日本人よ。でもね、自由に生きたいから、移民を選んだの。
あなたは、壁の向こうに住んだことある?」
「いいえ、私はないです。」
「向こうはね、つまらないのよ。何ていうのか、全てが生まれた時から快適で、言ってみれば、退屈なのよね。もちろん、バーチャルビジョンを使えば、いろんな経験もできるけど、結果は全部ハッピーエンドでしょ。もっとリアルな体験がしたいのよ。向こうじゃね、みんな幸せしか与えられないのよ。でも、言ってみれば、不幸になる権利だってあるでしょ。それが、認められないのよねー。」
「不幸になる権利って、何ですか。みんな幸福を求めて生きているんじゃないんですか?」
「あなたね、背徳って知ってる?決まりきった人生を生きたってつまらないと思わない?
別の言い方をすれば、悲しみや、苦しみを知らずに、本当の喜びとか、幸せってあるのかしら。
辛い目にあって、初めて感謝の気持ちも生まれるでしょ。生きていることの有難味っていうのは、不幸があってはじめてわかるものじゃない?
私は、そういう本当の喜びを知ってみたいのよ。その為には、最初っから楽してばかりの人生じゃ味わえないと思うのよ。だから私は、あえて移民になったの。
私は、それを勝手に『不幸になる権利』って呼んでるのよ。
なんて言うのか、光と影のはざまって言うか、だれも普通では経験できないような、胸の奥が苦しくなるような、そんな経験がしてみたいのよ。
ところで、あなたロクサーヌって言ったわね?」
「はい」
「あなたは、女の子?見た目は女の子だけど、本当は男の子でしょ。」
「どうしてですか?」
「だってね、女の子は、いきなり『LGBTですか』なんて、聞きかたしないわよ。女の子は、もっとその辺、人の心に敏感で自然に配慮しちゃうのよね。そういうトンチンカンなことができるのは、たいてい男なのよね。見た目じゃごまかせても、私の目はごまかせないわよ。でも、あなた、かわいいわね。もしよかったら、私と一緒に2丁目に行ってみない?もっと面白い人が一杯いるわよ。」
その人が、そう言い終わる前に、ラムが激しく吠えたてた為、その人は慌てて去ってしまった。
しかし、そう言われてみれば、私はなぜ女の子なのだろう。
私の元の人格であるkは男性のはずだ。それが、なぜ?



関連記事
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

gasset

Author:gasset
FC2ブログへようこそ!
歴史的事実に改編を加えた妄想小説です。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
03 | 2024/04 | 05
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR