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ロクサーヌ (その8)

 脳波の分析のためにいろいろな種類の薬を飲まされた。薬を飲むたびに人格が変わるようだ、たぶん精神の深い部分に作用する薬なのだろう。
病室の白い壁を見ていると、古い記憶が思い出されてきた。大雨の降った夜だ、私は奥多摩の多摩川沿いの国道にいた。上り坂の右手は山の急斜面になっていた。左手のガードレールの先は崖になっていてその下を多摩川が流れていた。右にカーブする曲り角をすぎると左手にガードレールの切れ目があり、そこから下の川岸に細い坂道があった。その坂道を降りていくと川岸にへばりつくように小さな平屋があった。近づくと、雨の中を犬が吠え騒ぎ、男が家の中から出てきた。左手に鎌を持ち右手にノコギリを持って私に襲い掛かってきた。男は酔っており私を誰かと間違えているようだった。大雨のせいで上流の小河内ダムの水門が開放されていたのだろうか、川は激流となり今まで見たことのないほどの勢いだった。私は傘をさしていたが、男にじりじりと追い詰められていた。真っ暗な中、後ろは多摩川で、右手では犬が吠え正面に男が鎌を振りかざしていた。もしここで川に落ちたら間違いなく死ぬだろうと思い恐怖を感じた。その時、足を滑らせたのだろうか、男の体が崩れた。私は傘をかざして前に突き進んだ。そこで夢は途切れていた。その夢を見た翌日、多摩川の下流羽村の堰の付近で男の死体が上がった。警察が私の家に来た。殺人の容疑で私は取り調べを受けることになった。しかし、私はその男と面識もなくもちろん殺人の事実もない。その男に会った記憶もないのだ。だが、その夢を見たのは確かだった。私は裁判でも無実を主張したのだが、私の指紋のついた傘がその男の家の前にあり、私の靴にはその現場の土が付着していた。私は記憶のない事件に巻き込まれた、と思った。ただ、どうしてその夢を見たのかが不思議だった。裁判の結果私は多摩地方にある医療刑務所に収容された。そこでも、こうして病室で白い壁を見ていたことを思い出していた。
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